蜷川シェイクスピア、「
卒塔婆小町」で美しかった
高橋洋さんを観たくて足を運びました。
開演前に客席にはいると、舞台はすでに幕が上がった状態。
欧州の街並と思しきセットが、鏡張りで作られています。
「
十二夜」歌舞伎バ-ジョンを観た友人と鑑賞しましたが
このときも鏡張りだったとか。先日みた「
コーラスライン」もそうで、
自分の席から自分の姿を舞台上に観ることができる効果、
「この世は舞台、人間はみな役者」というシェイクスピアの言葉どおり。
【蜷川幸雄×藤原竜也×鈴木杏
ロミオとジュリエット】
【間違いの喜劇】
生き別れになった
双子の息子を探して、
トルコ・エフェソスに紛れ込んだ
シラクサのイジーオンは、法律により死罪となるところを
公爵の情けで、保釈金を集めるまでの一日、命の猶予を与えられる。
ちょうどその
エフェソスへやってきたのが、
イジーオンの双子の息子・
アンティフォラスと、同じ日にこれまた双子として生まれた
従者・ドローミオ。
二人は自分たちの身の上を隠して、生き別れになったそれぞれの
兄を探すも、
なぜかこの初めての土地で、旧知の仲のごとく人々に扱われ、
見知らぬ身分高き
女性・エイドリアーナからは
夫としてもてなされ、
次第に事件に巻き込まれてゆく・・・。
ステージと観客席を縦横に生かした舞台運び。
セットは
城壁となり、
町かどになり、
尼僧院となり、
役者の動きによって目まぐるしく役割を変えてゆき、
2組の双子が巻き起こす大騒動に、観客はすぐさま巻き込まれ、
エフェソスの民に模されてしまいます。
客席通路をこれほど使った舞台はあまりないかもしれないなと思うほど。
ゆえに役者さんがしょっちゅう、目の前に、手の届く場所にいる状態。
ファンの方は幸せだったでしょうね、この舞台。
そんな舞台が始まって、すぐに目がとまったのが、
アンティフォラス役の
小栗旬さん。
ドラマや映画で活躍されている方だそうで、観客席に若い方々が多かったのも道理。
所作の美しさといい、不敵で傲慢な表情を持ちながら愛嬌を失わない色男ぶりといい、
終始、四方八方から見られている方のオーラを感じました。
それ以上に注目だったのが、
エイドリアーナの妹・ルシアーナの
月川悠貴さん。
「
卒塔婆小町」のときも貴婦人役として出演していらっしゃいました。
そのときも今回も、出演者は全員男性。
とわかっていても、どうしてもひとり、女性としか思えない方がみえまして。
今回も滑らかな背中を大きく見せたドレスをまとい、優しき声音で話す様子は
観客席の通路を歩く姿を間近でつくづくと拝見しても、まったく女人そのもの。
城壁の窓からはだけた胸を見せるシーンがなければ、
パンフレットで確認するまで信じられないほど。
女性役に定評があり、「
ハムレット」の劇中劇で王妃をされたというのも、納得。
「
観ていてどこか狂気を感じさせる役者」を見つけるのが、
舞台を観る醍醐味のひとつなのですが、今回、その役者がいて幸せ。
高橋洋さんは、前回の深草少将から一変。
従者・ドローミオは
チャプリンのドタバタ劇を彷彿とさせる道化役。
主人・アンティフォラスに忠実に仕えても仕えても「
間違いの喜劇」ゆえの錯誤に
貶され小突かれ蹴飛ばされ。
双子の兄弟を演じ分け、ということはほとんど出ずっぱりで舞台を走り回ります。
この
ドローミオ、「
真夏の夜の夢」の
パックにも通じるものがあり、
やはり相当な体力と演技力のある役者しかできないキャラクター。
小栗さんの
アンティフォラスとともに、いっこく堂さんに腹話術を伝授されたときも
才能ありとお墨付きをいただいたとか。
いつ出てくるかしら、と最後まで待っていたのが
鶴見辰吾さん。
ちょうどチケットを取ったのが、「
オーラの泉」に出演されていた頃で
修業が大好きだという鶴見さんがどんな役をされるのかと愉しみに。
慈愛に満ちた、素敵な
尼僧長でした。
間違いの喜劇
「
この世は舞台、人間はみな役者」、よき役者を堪能できる素晴らしい舞台へぜひ。