藤原竜也さん主演の舞台に。デスノートで父親役をされた鹿賀丈史さんや
「有閑倶楽部」でコミックから抜け出したような剣菱悠理を好演しておられた
美波さんとの共演も楽しみに足を運びました。
【舞台の内容に触れますのでご覧になりたくない方はどうぞスキップなさって下さいね】
【かもめ】
19世紀末、革命前のロシアで前衛演劇の創作に意欲を燃やすトレープレフ(藤原竜也さん)は、
湖畔にある伯父の屋敷で、大女優である母・アルカージナ(麻実れいさん)や、
作家であり、母の愛人でもあるトリゴーリン(鹿賀丈史さん)たちを前にして
彼の恋する地主の娘・ニーナ(美波さん)に自作を演じさせるが、
母の横やりに怒り、演技を中断させてしまう。失望した青年をよそに、
ニーナは女優を志し、トリゴーリンを追って街へ去ってしまうのだった。
二年後、気鋭の作家として名を成しつつあるトレーブレフは
湖畔でニーナと再会する。あまりにもかけ離れた日々を経た二人が
最後に選んだ道とは…
***
雪に閉ざされるロシアの自然のように、人生の中の陰鬱な色彩を描き出した作品。
一緒に行った友人が、何度も戯曲にトライしても、
なかなか最後まで読み通せなかったと話していたように
作り方によっては、観客席が抗えない睡魔に連れ去られる危険も。
それが、まさに目の醒めるような役者陣のおかげで、最後まで楽しむことができました。
前衛演劇上演は、抽象的観念的言葉が長時間続く難しい場面でしたけれども、
美波さんのニーナが全身に霊気をみなぎらせ、透き通るような声で表現されていて。
「九九を唱えても詩に聞こえる」という女優がいるそうですが、彼女もその例の一人でしょう。
友人共々、注意を向けてしまったのが、麻美れいさん。
ニーナの演技を中断させたのは、若い娘のみならず、自分の息子にさえも
才能の萌芽を認めるのが目障りだったのではないかと思わせる、
良き母の対極にある女優の性を、巧みに嫌味なく演じておられました。
鹿賀丈史さんの舞台を観るのは、今回が初めて。
偉大な役者の雄姿を今さらながら拝見するのは、遅きに失してしまったのですが、
さすが、陰々とした舞台の雰囲気も、彼が一声発すればどんな種類のセリフでも何故か
ユーモラスに変えてしまえる存在感がありました。
小島聖さん、藤田弓子さんといった、もっと中央に居てよい女優さんも脇を固めていて。
藤原竜也さんの舞台は、彼の独断場、「彼のみが輝いている」作品になることも多く
それはそれでスター拝見の意味合いでは、納得できる場合もあるのですけれども、
「かもめ」では彼と周囲の役者の方々との比重は、よき均衡を保っていたように思います。
完成された脚本ゆえに致し方ないことではありますが、藤原さんと鹿賀さんとの絡みが
少しあるともっと面白かったかなと。
同じくファントム的役者である市村正親さんとの共演の妙を体験していましたので、
一枚看板、タイトルロールな者同士が散らす火花をいま1度観たかったのですが。
贅沢な期待をもって、次の機会を待つことにしましょう。
「藤原竜也さんの舞台の日記」