|
カテゴリ:福島第一原発 汚染水
本記事は長文で、情報量やリンク数も多いことをお断りしておきます。
過去に当ブログに掲載したことも含めて情報を整理・集約した記事の1本目です。 (経緯のその後) ●「その2」(2021年4月13日~22年5月) ●「その3」(22年6~12月) ●「その4」(2023年1~5月/参考情報として「希釈放出設備」「モニタリング体制の概要」「ALPS処理水に関する広報事業一覧」) ALPS処理水の扱いに関する経緯 フクイチ(東京電力・福島第一原子力発電所)では核災害を原因とした汚染水(放射性液体廃棄物)が増え続けています。 政府・東電は、21年4月13日に「ALPSの性能一杯まで処理した水(一定濃度以下になるまで放射性物質を除去した放射性液体廃棄物)は、希釈して海洋に放出する」方針を定め、その準備を進めています。 処理水の扱いに関しては検討の経緯が複雑で長期間に渡っています。当記事は、過去の経緯を整理した上で、私の見解を記載したものです。 私の意見は当記事の後半に書いています。経緯を把握なさっている方は、記事下部にスクロールなさって下さい。 拙ブログでの用語についてお断りしておきます。 ●「処理水」について 「一度はALPSで核種の濃度低減処理をしている、相対的に低濃度の放射性液体廃棄物」と書くべきですが、簡略化の為、「処理水」と記載しています。 ●「風評被害」について 「核災害による『市場構造の変化』『ブランド価値の毀損』という被害」と書くべきですが、政府・東電の説明を引用・要約する際は「風評」という言葉を用いています。私自身の言葉として書く場合は、主に「市場構造の変化」を用います。 当ブログのポンチ絵やグラフはクリックすると拡大します。無断転載・引用はご遠慮下さい。 グラフ・表・ポンチ絵はB5サイズ以上のタブレット・PCでご覧頂くことを前提に作成していることをお断りしておきます。 見難い場合には、ワード・ペイントに張り付けてご覧下さい(Windowsの場合)。 ●露外務省:日本は福島第1原発からの放射性汚染水の太平洋への放出を禁止すべきだ(2017年12月20日/スプートニク)出典のリンクは、全てを網羅していないことをお断りしておきます。 ●処理水の扱いに関する経緯(2011年3月~21年4月12日) 注記や数字の出典(リンク) ●原子力市民委員会「ALPS処理水取扱いへの見解」(2019年10月3日) ●原子力市民委員会・上の補足(10月11日) ●韓国海洋水産部「中国・チリも『日本福島汚染水』の海洋排出に懸念」(中央日報/10月10日) ●韓国海水部、ロンドンで「日本福島汚染水」を公論化…中国・チリは同意(同) ●中国、韓国、チリが放射能汚染水への憂慮を表明 ーーロンドン条約/議定書締約国会議 (グリーンピース/10月10日) ●福島第一原発処理水に関する緊急提言(10月7日/日本維新の会) ●福島第一原子力発電所の廃止措置等に向けた中長期ロードマップ(12月27日) ●汚染水処理対策委員会 ●トリチウムス水タスクフォース ●多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会 ●多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会報告書を受けた当社の検討素案について(20年3月24日・東電) ●多核種除去設備等処理水の取扱いに係る関係者の御意見を伺う場 及び 書面による御意見の募集について(経産省) ●【経産省】多核種除去設備等処理水の取扱いに係る「関係者の御意見を伺う場」公式動画への意見表明者個別リンク(全7回)(市民による独自のまとめ) ●東京電力福島第一原子力発電所のALPS処理水の現状に関する在京外交団向けテレビ会議説明会の開催(20年4月3日/外務省) ●「東電福島第一原発の処理汚染水に関する声明~合意なき環境放出は将来に禍根を残す~」記者会見資料(原子力市民委員会/4月24日) ●台湾のNGOから日本国経済産業省への意見書(FoE Japanのブログ/5月13日) ●福島第一原子力発電所事故に伴う汚染水の海洋放出に断固反対する特別決議(全漁連/6月23日) ●「2020原発のない福島を!県民大集会」実行委員会(20年8月) ●2020.9.3「これ以上海を汚すな!市民会議」と経済産業省との意見交換会・ノーカット動画 ●「声明:政府は福島第一原発ALPS処理汚染水を海洋放出してはならない。汚染水は陸上で長期にわたる責任ある管理・処分を行うべきである」(原子力市民委員会/10月20日) ●ALPS処理水の現状に関する在京外交団向けテレビ会議説明会の開催(20年10月28日) ●建屋滞留水処理等の進捗状況について(東電/12月24日) ●報告書『福島第一原子力発電所の廃炉計画に対する検証と提案』(グリーンピース/21年3月10日) ●2月13日の地震によるタンクへの影響について(3月25日) ●原水禁の声明(4月9日) ●「福島第一原発のALPS(多核種除去設備)処理汚染水海洋放出問題についての緊急声明」(原子力市民委員会/4月11日) ●福島第一原発汚染水の海洋放出に抗議し、撤回を求める緊急声明(日本消費者連盟/4月12日) ●汚染水「海洋放出」に反対署名6万筆〜官邸前デモも(OurPlanetTV/4月12日) ●処理水ポータルサイト(東京電力) ●告示濃度(核原料物質又は核燃料物質の製錬の事業に関する規則等の規定に基づく線量限度等を定める告示/2015年8月31日・原子力規制委員会決定/PDFの29頁から始まる別表第一。水中の濃度は第六欄、気中の濃度は第五欄。水の1Lは1000立方センチなので、1L当たりの濃度を求めるには、第六欄の数字を1000倍する) ●民の声新聞【107カ月目の汚染水はいま】もの申せない内堀県政。「幅広い意見聴いて検討を」も地上保管継続には言及せずゼロ回答。茨城県と異なり海洋放出容認?」(2020年2月29日) ●民の声新聞【109カ月目の汚染水はいま】「内堀知事は海洋放出に反対しろ!」 陸上保管求める市民団体が福島県に要請書 「コロナ禍に紛れて決めるな!」(4月27日) ●民の声新聞【121カ月目の汚染水はいま】「風評被害でなく実害を招く」中通りからも海洋放出に反対の声「結論ありきじゃないか」(2021年4月10日) ●民の声新聞【121カ月目の汚染水はいま】「ふるさとの海を守れ!」 いわき市小名浜で海洋放出反対の緊急スタンディング 「聖火リレーのどさくさで決めるな!」(4月12日) 参考資料1:ALPSの構成概念図 参考資料2 福島第一での放射性物質の放出基準 下記リンクは、拙ブログの汚染水関連の過去記事と、月刊「政経東北」の連載記事です。 ◆21年4月12日までの過去記事一覧(▶はブログ記事。●は「政経東北」の記事) ►説明・公聴会の前提が変わってきた、フクイチのALPS処理水 (2018年8月23日) ► 緊急アップ! 看過できない経産省の「説明」~ALPS処理水を「汚染水ではない」と断言して良いのか~(8月25日) ►ALPS処理水の扱い~私が海洋排水に反対する理由~(8月29日) ►ALPS処理水の海洋放出に反対~市場構造の変化も、核災害による被害~(8月30日) ►ALPS処理水の含有核種・濃度は、小委員会にどのように知らされていたのか(9月18日) ►場によって、発言と沈黙を使い分ける開沼博准教授のズルさ(9月20日) ►9月28日に、吉良よし子参議院議員の事務所で、ALPS処理水のレクチャーに同席(9月30日) ▸ALPS処理水に関する公聴会の意義と役割~意見総数は179件~(10月7日/公聴会の動画へのリンクも有り) ►フクイチのALPSは、稼働率と除去率がトレードオフ(10月14日) ►ALPS処理水に関する消費者・国民の意識と、それに基づいて考える(2019年3月7日) ►「ALPS処理汚染水を環境中に放出しない」ことを求める要請書(20年1月23日) 関連:金曜行動「希望のエリア」で、主権者・国民の責任の重さをスピーチ ●「処理水」はタンク貯留を継続すべき(月刊「政経東北」20年4月号) ▸「多核種除去設備等処理水の取扱いに関する意見募集」に、意見を提出(7月30日) 私の意見は「環境中へは放出せず、地上保管を継続すべき」 私の意見は、これまでにも当ブログや「政経東北」の連載でも書き、SNSでも発信してきました。繰り返すと煩雑なので、箇条書きにします。 1.「核災害で生じた放射性廃棄物」と「核施設の通常運転で発生する放射性廃棄物」を同列に扱って環境中へ放出することは、「核災害起こし放題」というモラルハザード(倫理欠如)の前例になりかねない。 2.「核災害で生じた放射性廃棄物」を意図的且つ大量に放出すれば、日本の信用が国際的・歴史的に取り返しのつかないほど毀損されかねない。 3.フクイチ核災害による、(特に福島県の一次産品を中心とした)「市場構造の変化」「ブランド価値の毀損」という被害を深化させるのは確実。 ALPS小委員会への評価 フクイチの「処理水」の扱いに関する議論が加速し、世論に可視化されるきっかけが、経産省のALPS小委員会(多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会)でした。 この委員会は経産省が選定した外部有識者の集まりで、行政上・政治上の決定を下す権限を持つものではありません。大前提として、この点は押さえておかなければなりません。 あくまでも外部有識者からの意見聴取を目的としたものです。 大体、省庁が設置する有識者会合とは「多角的な視点から検証した」「多くの立場の方から賛同を頂いた」「異なる意見にも耳を傾けた」形式を整える為のものででしょう。 ところが、ALPS小委は、経産省の思惑とは違ってしまったようです。 第1回小委員会(2016年11月)で提示された「多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会 規約(案)」の「(目的)第1条」では、次のように記載されていました。(リンク) ====引用ここから==== 小委員会は、東京電力ホールディングス(株)福島第一原子力発電所における多核種除去設備等処理水の取扱いについて、トリチウム水タスクフォース報告書で取りまとめた知見を踏まえつつ、風評被害など社会的な観点等も含めて、総合的な検討を行うことを目的とする。 ====引用ここまで==== これが、約3年後の第13回小委員会(2019年8月)に提出された「資料3 多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会の位置づけについて」では、同資料3頁に次のように記載されています。 ====引用ここから==== ●小委員会の役割は、風評被害などの社会的な観点も含めた総合的な検討及び政府への提言のとりまとめ ====引用ここまで==== 委員会発足時には無かった「政府への提言のとりまとめ」が追加されています(リンク)。 私は全17回の委員会を傍聴しています。それまでは「政府への提言」という言葉を聞いた・読んだ事は無かったので、13回委員会を傍聴していて、奇異に感じました。 第1回委員会の議事録も改めて確認しましたが、規約案の説明の際に「政府への提言」には何も触れられていません(詳細は議事録の1~3頁→ 議事録へのリンク)。 経産省の描いていた路線は「小委員会で処理水の環境中への放出を軸としたとりまとめを行い、放出方法・時期も書き込んでおく。実施の判断のみを政治決定とする」ものではなかったのかと推測されます。 ところが、経産省の描いていた路線は、「トリチウム以外の核種が除去できていないことが報道された」「公聴会で市民の指摘に応え切れなかった」ところから躓き始めたように見えます。 この状況で処分方法の細部までとりまとめ、実施の判断だけを政治家に委ねると、実質的な決定者は経産省となる可能性が有ります。経産省は自らへの批判を軽減する為に、「政府への提言を行う」という文言を加えて小委員会の重みを軽減し、早期に小委員会を閉じて「処分の具体策の決定も含めて、決定の主導権を政治に渡そうとした」のではないでしょうか。 以上が、私の見立てです。 私が上記のように推測した理由は、他にもあります。 1.2018年の公聴会では「処分方法・時期に関する意見」を募集していたにも関わらず、実際の取りまとめ案では、処分時期に関しては殆ど記載されていません。 2.第12回までは委員がプレゼンしたり、各業界の専門家に話をして貰い、質疑をする形式でした。第13回以降は事務局(経産省)の説明に委員が質疑する形式となり、東電もそこに加わって、「長期保管」「地上保管」を封じていく説明を繰り返し、僅か4ヶ月程度で報告書案が提示されました(第13回は19年8月9日、報告書案が提示された第16回は同年12月23日)。 半ば、私の印象も入りますが、13回委員会を境として、委員会の雰囲気や進め方がガラリと変わっているのです。振り返ってみると、経産省はとりまとめを急いでいるようでした。 ALPS小委の報告書は「提言もどき」 そもそも、ALPS小委の報告書は提言の態を為していません。具体的に指摘します。 1.実施時期・処分場所が盛り込まれていない 2.地上保管・タンク保管の継続を「難しい」としており、否定していない 3.海洋・大気放出を推奨しているが、具体的なシミュレーションが為されていない 4.二次処理・希釈処理を盛り込んでいるが、二次・希釈処理やモニタリング体制が実証されていない 5.「風評」という言葉が目次を除いて48回(春橋調べ)も使われており、放射性液体廃棄物ではなく、経済対策(もっと露骨な言葉を使うなら「地元対策」)を論じているのかと錯覚する。 本来なら、1の点だけでも、提言とは呼べません。 4は、経産省の「やる気の無さ」の象徴のようです。 経産省は、凍土方式陸側遮水壁(以下、「凍土壁」)を作る際には、フィージビリティスタディ(実証事業)として予算を付け、ミニ凍土壁を作れることを確認するなど、裏付けを取ってから進む慎重さが有りました(凍土壁への賛否はここでは論じません)。 ALPS小委の報告書は「地上保管の否定・環境中への放出」という道筋をつける事だけを目的としていたというのが、私の評価です。 3年以上、議論・検討を続けて、実証・検証されていないことを書き込み、当初は議論されていた処分時期も落としており、提言にしては好い加減です。 更に、経産省のやり方が悪質・小賢しいと思うのは、海洋・大気放出の具体的なシミュレーションや二次処理の実証試験を、小委員会を閉じた後に事業者(東電)に実施させたことです(公式には「実施させた」のではなく、東電が自主的に行ったことですが、小委員会の会期中に実施しなかった理由は一切説明されていません)。これでは、シミュレーションや二次処理試験の妥当性を議論する場が有りません。 このようなやり方も、「(放出の)具体案には、なるべく関わりたくない」という経産省の逃げの姿勢(=責任の軽減化)の表われと受け取れました。 「意見を伺う場」をどう捉えるか 小委員会の報告書提出後、「ご意見を伺う場」なるものが20年4~10月に全7回実施されました。 この中でALPS小委の報告書を真っ向から否定した人はいません。福島県知事を始め自治体の首長が1人として放出に関する賛否を明確にしないのも、動画を観ていて呆れました。 毎回、経産副大臣が大袈裟すぎる挨拶をしていましたが、「意見を伺う場」は「放射性廃棄物の扱いを訊く場」とは思えませんでした。 この点も私見をまとめます。 1.団体や自治体の代表が意見を述べていたが、個人としての意見なのか、団体内部で議論を積み上げた上での意見なのか明確でない(後日、「個人の見解だった」として、別の見解を出すことも可能)。 2.傍聴・囲み取材が不可能で、新型コロナウィルス感染症対策としての緊急事態宣言下でも開催が強行された。国民・住民と共有しようという意思が感じられなかった。 3.経産省は意見表明者へ殆ど質問せず、意見表明者からの指摘にも答えていなかった。「聞き置くだけ」としか思えなかった。 4.政府・自治体・団体の間で、「風評対策」予算の支出・配分を巡る腹の探り合いの場と化していたのではないか。 特に第3回(20年5月11日)の経団連・旅行業界の意見は露骨でした。 全国規模の団体であるにも関わらず、「福島」を連呼し、原子力発電を推進してきた国策への言及も無いままに「風評対策に協力します」と語っている様は、「協力しますから予算措置をお願いします」と言わんばかりで、視聴していて不愉快でした。 対抗できるのは市民パワーだけ 利害関係の無い市民の力でないと、現状は覆せないでしょう。 市民の力が結集したことで、ALPS小委員会の公聴会では「原子力ムラ」を撃破し、躓かせることに成功しました。再び、躓かせられる(放出に向けた動きを止める)のも、また市民だけだと思います。 「核災害で生じた放射性廃棄物で、中身も未確認のものを、お宅の近所の湖や海岸に放出して良いですか?」という問いかけに、「うん、良いよ」と答える人はいないでしょう。それが良識・常識だと思います。この素朴な問いかけを繰り返し、社会の中に「(「処理水」の海洋放出に対して)疑問に思う人」を増やしていかなければ、経産省や東電は止められないと思います。 オセロやチェスのように、一発大逆転の方法などはありません。 「急がば回れ」で、進めていくしかないでしょう。 春橋哲史(ツイッターアカウント:haruhasiSF) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
[福島第一原発 汚染水] カテゴリの最新記事
汚染水の海洋放出嫌だと喋って居たら、
ロスアトム社のホームページにトリチウム水の処理が載っていると教えてもらいました。 見識のある方の見解が伺えたら幸いかなぁと、コメント欄に書かせてまらいました。 気が向いたら、よろしくお願いいたします。 (2022.11.08 12:29:45)
きなこさんへ
コメントを有難うございます。 私は技術者ではないので、印象めいた意見ですが、「実プラントで運用・稼働させた経験がない技術」を導入しても、保守・メンテナンス含めて、書類や仕様通りにはいかず、稼働率は上がらないと思います。却って、プラント設置の面積を要し、保守の人員が必要で管理が複雑になると思います。 シンプルに長期貯留を続け、自然減衰を待った方が、結果的にはリソースも被曝線量も節約できると思います。 (2022.11.29 21:28:56) |