「もんじゅ」のリスクは着実に低減
核燃料が水冷に切り替わり、リスクが格段に低減している「もんじゅ」 日本原子力研究機構(原研機構)が所管している高速増殖原型炉「もんじゅ」の廃止措置の進捗です。拙ブログでは約1年ぶりの更新です。「もんじゅ」の核燃料532体の燃料池への移送作業は2022年の10月に完了しています(2018年8月30日~22年10月13日)。 この間に、二次系のナトリウムも全量(約760t/200℃容積。以下同じ)を抜き取っており、原子炉内のナトリウム(一次系)も液位を下げています(776t→385t。約390tを抜き取り)。 ナトリウムは空気に触れると爆発的に燃焼する性質が有ります。ナトリウムに核燃料が浸かったままでは、ナトリウムが漏洩した際に核燃料を巻き込んで炎上するリスクが有りましたが、核燃料の全てを燃料池(プール)に移送したことで、そのリスクは解消されています。23年度から廃止措置の「第二段階」「もんじゅ」の廃止措置は2023年度から第二段階に移行しています。 23年7月から、原子炉内の非核燃料体(模擬燃料体・制御棒等)の取り出しが開始されました。非核燃料体599体を燃料池に移すのが目標で、26年度完了予定です(「廃止措置第二段階前半」終了)。 非核燃料体を燃料池に移し終えた後に、原子炉・炉外燃料貯蔵槽内のナトリウムを抜き取って所外搬出しなければならず、これは2031年度完了予定です(「廃止措置第二段階後半」終了。但し、通常の操作では抜き取れない、底部等に残存するナトリウムは除く)。 核燃料は乾式キャスクに移し終えるまで、燃料池(プール)で水冷保管されます。 23年度の「もんじゅ」の廃止措置の進捗を、年表風に記載します。 23年4月28日に、ナトリウムの搬出・処理に関して、イギリスのキャベンディッシュ社と枠組み契約を締結。 6月2日に、原子炉内の非核燃料体の炉外燃料貯蔵槽への移送を開始(7月4日までに202体を移送)。 6月17日に、全核燃料が収納ラックに貯蔵されている状態での燃料池(プール)の水温測定を開始(9月30日まで継続)。 7月3日に、ナトリウムや核燃料とは無関係である「水・蒸気系等発電設備」の解体撤去を開始。 9月6~8日に、燃料池の冷却機能を停止し、その状態でもプールの水温が35度未満(最高でも34.6度)にとどまっていることを確認。 10月18日に、非核燃料体の燃料池への取り出し(炉外燃料貯蔵槽から燃料池への移送)を開始。 10月25日に警報が発報し、非核燃料体の取り出しを終了(18日の開始以来、14体を取り出し)。 警報が発報した原因(燃料ポッドと呼ばれる、移送計画に含まれていなかった部材を吊り上げ、それがナトリウム洗浄設備の中で引っかかって、設備の動作を妨げていた)は、今年1月中に解消されたので、それ以後は機器・設備の点検中。 経緯の概略は以上です。 10月に警報が発報したことを除けば、「6月に非核燃料体を移送開始」「7月に水・蒸気系等発電設備の解体開始」「6~9月に燃料池の冷却停止実験と水温測定を実施」と、2022年12月の「第43回 もんじゅ廃止措置安全監視チーム会合」(原子力規制委員会。以下「チーム会合」と略)で機構が説明した通りに進んでいます。 少なくとも「もんじゅ」に関しては、「説明した通りに進められる」という、当たり前のことが出来ているように見えます。2017年冒頭に「燃料交換機の点検が必要で原子炉内の燃料が取り出せない」ことが明らかになった時にはどうなることかと冷や冷やしましたが、機構は、「もんじゅ」については態勢を立て直したと言えるでしょう。燃料池の強制冷却不要が確認されたのは、大きな前進 原研機構は、2022年12月に開催された原子力規制委員会の「第43回 チーム会合」で、燃料池(プール)について、概ね、以下のように報告しました(資料1-1/28頁)。(リンク)●第43回もんじゅ廃止措置安全監視チーム(動画と資料)「燃料池は通常は52℃」「貯蔵されている核燃料の崩壊熱は十分に減衰している」「燃料池の冷却を止めても、施設運用の基準である62℃以下を達成できる可能性が高い」「放射線の遮蔽に必要な水位は、注水を停止しても74日間は維持できる」「2023年6~9月に、燃料池の冷却の停止実験を実施する」 機構の説明・報告通り、冷却の停止実験は23年6~9月に実施されたそうです。 その結果を踏まえた今後の対応が、第44回チーム会合(2024年2月26日)で、概ね次のように報告されました(資料2中の「参考資料3」/37~47頁)。太文字は、私が特に重要と考えた部分です。(リンク)●第44回もんじゅ廃止措置安全監視チーム(動画と資料)「23年6月17日~9月30日に、全ての燃料体が燃料池の貯蔵ラックに貯蔵された状態で、燃料池の冷却を停止し水温を測定」「その間の水温は最高でも34.6度であり、運用上の基準の65度に対して30度以上の余裕がある状態で推移した」「測定結果を踏まえて、燃料池の強制冷却機能は不要と判断。冷却機能は性能維持施設から除外する」「冷却水の水質維持を目的とした運転に切り替える」 燃料池(プール)の強制冷却機能を止められるのは、大きな前進と言えます。 今後、原研機構は、原子力規制委員会へ廃止措置の補正(燃料池の強制冷却機能を性能維持施設から除外することも含めた)を申請すると思われます。廃炉を決定し、核燃料を冷やすのが最も確実 誤解されがちですが、原子力発電所で本当に怖いのは原子炉というプラントではなく、「核燃料集合体」です。 チョルノービリでも、フクイチでも、溶融・爆発の原因となったのは高温の核燃料です。核分裂反応が止められなくなったり、止めたとしても冷やせないことが、大惨事・大事故に繋がるのです。 燃料自体の熱で燃料の温度が更に上がっていくような事態が防げる程に、核燃料が十分に冷やせれば、フクイチ核災害のような大事故が起こる可能性は極めて低くなります 尚、燃料池(プール)が物理的に修復できない程に破壊されて冷却水が抜けたり、貯蔵燃料が地面に散らばって回収できないような「壊滅的な破壊」が生じれば別かも知れませんが、堅牢な核施設がそのように破壊される場合には、核施設の周辺も大規模に破壊され、広範囲の地域が容易に接近できない状況と思われるので、そのような極端なケースは、ここでは想定しません(映画「アルマゲドン」のように、隕石が狙いすましたかのように降り注いでくる状況ではないでしょうか。限りなく絵空事に近い想定と思われます)。 「もんじゅ」は2010年に試験的に臨界に達した以後は、運転されていなかったので、約13年に渡って核燃料の崩壊熱が減衰し続けていました。 そうして、今回「燃料池の強制冷却機能が不要」と判断されました。「もんじゅ」の例は、「核燃料の崩壊熱を減衰させること(=核燃料を冷やしておく)が、最も確実な核災害防止策である」ことの証明でしょう。 私は、原発を稼働させる前提で、冷却機能を含むプラントの設計・サイトの設備・避難計画を論ずることはしません。「廃炉を決定し、全ての核燃料の崩壊熱が十分に減衰した段階で乾式キャスクに保管」すれば、大量の放射性物質が環境中に放出されるような事故は防止できます。「もんじゅ」は、国策として廃炉が決定され、事業者の廃止措置を原子力規制委員会が監視し、今はプールの強制冷却が不要な状態にまで核燃料を安定化させました。「もんじゅ」と同じことを全国で実行すれば、核施設のリスクに怯えることは無くなりますし、フクイチ核災害の再来も防げます。「もんじゅ」の廃止措置は、核施設のリスクを着実に低減させた良好事例として広められるべきでしょう。 前置きが長くなりました。「もんじゅ」の廃止措置は、引き続き、見守ります。 以下、これまでの経緯等のまとめです。 炉内の非燃料体には放射化(元々は放射性物質ではなかったが、長期間放射線に晒されることで、放射性物質へ変化すること)したものもあり、ナトリウムからの取り出しです。今後も、安全・且つ着実に進めて欲しいです。 ポンチ絵はクリックすると拡大します。無断転載・引用はご遠慮下さい。 グラフ・表・ポンチ絵はB5サイズ以上のタブレット・PCでの閲覧を前提に作成していることをお断りしておきます。 見難い場合には、ワード・ペイントに張り付けてご覧下さい(Windowsの場合)。資料1 もんじゅの構造・概略原研機構の資料からキャプチャ資料2-1 「もんじゅ」概要と、1983~2012年9月の経緯(リンク)西村総務次長(当時)の「自殺」と、その後の裁判について(リンク)もんじゅ・西村裁判 Ⅲ資料2-2 2012~16年の経緯資料2-3 2017年以降の経緯資料3 費用概算参考春橋哲史(ツイッターアカウント:haruhasiSF)