☆25『貴婦人と一角獣』トレイシー・シュバリエ
先日の「真珠の耳飾りの少女」の作者。貴婦人と一角獣今度はパリのクリュニー美術館(今は国立中世美術館)に展示されている6枚のタペストリーをめぐる物語。細密画と得意とする絵師ニコラが、なぜかタペストリーの下絵を注文されるところから始まります。真珠~が主人公の少女の一人語りで、フェルメールへの淡い想いが語られてるのに対し、こちらの主人公ニコラはかなりの女好き。ニコラが出会う女たちが6枚のタペストリーへと描かれていきます。6枚のタペストリーは、それぞれ《視覚》《聴覚》《味覚》《嗅覚》《触覚》《欲望》を主題としているそうです。表紙にはそのうちの「視覚」が。初めて見たときは、なんだか変な表情の人だな、と思ったんですが。読んだあとはものすごく納得。しかし、現実には作者不詳モデル不詳なわけですから。あの表情からこの物語を作り出すなんて、ほんとうにびっくりです。ちなみに絵師ニコラはベルギーの織氏の工房に行きます。下絵を元に、織氏がデザインを決めてタペストリーを紡いでいくわけですが、人物の描かれていない地の部分には「千花紋」と呼ばれるたくさんの花々を織り込んであります。これがもう四季折々の花々で。一つ一つ違っていて美しいです。またそれもこの作者にかかると物語があるわけですよ。まったく。1枚の絵からこんなに物語を創り出すってすごすぎる。本当にニコラが彼女たちを描いたに違いないって思うもの。私が好きなのは奥方と、織氏の妻です。アマゾンの紹介には「美と官能、禁断の愛の物語」とありますが。うーん、それは違うと思うなあ。それだと全員ニコラと恋愛関係にあるように聞こえるぞ。本当に、6枚のタペストリーをめぐる、女たちの物語です。ニコラは導き手であって、真に語られてるのはこの時代の女たちの話です。最近当たりの本が続いてますが、この作者はかな~り大好きになりました。