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カテゴリ:洋書
女性作家パット・マガーによるミステリ。 犯人が、自身を追い詰めるであろう探偵を探し当てる必要に迫られるという、通常のミステリとは逆の展開になっている。 原題は「Catch Me If You Can(捕まえられるなら捕まえてごらん)」だが、日本では「探偵を探せ!」があまりにも有名になってしまっている。 粗筋: 元女優のマーゴットは、病身の夫フィリップに呼び寄せられ、指摘される。俺に毒を盛って殺そうとしたな、と。マーゴットは否認するが、フィリップは耳を貸さない。 金目当てで結婚したがっていたと分かっていながらも承諾した自分は馬鹿だった、今から離婚してその間違いを正す、と語り始める。また、毒を盛った錠剤は知り合いの探偵ロッキー・ロードスに送り、分析させたので、ロードスがここに到着した時点でお前は殺人犯として逮捕される、とも語った。 老い先短い大金持ちと結婚して、死期を一日でも早めてやろうと色々画策していたのに、今更無一文で離婚されては困ると焦ったマーゴットは、その場でフィリップの顔に枕を被せ、窒息死させた。 自然死に見せ掛けて殺せたと安堵したマーゴットだったが、自分が殺人犯であると指摘出来る探偵が間も無く到着するのを思い出す。 今更やって来るのは阻止出来ないので、その探偵が訪れるのをとりあえず待つ。 マーゴットの住まいとなっている山荘に、シェルダンと名乗る新聞記者が到着。道に迷ってここに来た、と言い張った。 マーゴットは、シェルダンこそ探偵だと読む。新聞記者だ、というのは当然ながら嘘だと。持参してきたであろう毒入りの錠剤を回収し、始末しなければ、と考えた。 が、シェルダンを皮切りに、他に次々と訪問者が到着。 セールスマンのミラー、児童物作家のケイツ、そしてクインという若い女性。いずれも、山荘に宿泊する予約を入れていたと主張する。 シェルダンが到着した時点では、彼こそ探偵だと信じて疑っていなかったが、続々と到着する訪問者を前に、確信が持てなくなってしまった。 マーゴットは、フィリップの死が病死であるのを世間に納得させる為の工作と、探偵を探し当てて始末し、毒入り錠剤を回収する、という事を同時に進行させなければならなくなった。 マーゴットは、探偵だろう、と目星を付けたミラーを殺害。彼の身の回りの物を探してみたが、錠剤は見付からなかった。間違って殺してしまったのか、と後悔。 マーゴットは、長年連れ添ってきたトムリンソンおばさんを利用し、次に探偵だと目星を付けたケイツを殺害。しかし、錠剤は見付からなかった。 トムリンソンおばさんは、殺人に手を貸した事に動揺し、怖気付く。ミラーとケイツの殺害は、事故死を装ったが、同じ場所で立て続けに起こっているのは明らかに不自然だった。警察が本格的に捜査を始めたらたちまち暴かれ、自分も共犯として逮捕される、と悩む様になってしまった。 マーゴットは、長年連れ添ってきた理解者を殺す事を一旦は躊躇うが、自分の罪が暴かれる証言をされては困ると判断し、トムリンソンおばさんを自殺に見せ掛けて殺してしまう。 探偵候補は二人に絞られた。 探偵が女性であっても不思議ではない、と考える様になったマーゴットは、クインこそ探偵だと信じ込む。 彼女を問い詰め、殺害しようとするが、失敗してしまう。 これで自分は終わりだとマーゴットは判断し、投身自殺を図る。 マーゴットは、直ちには死ななかった。 薄れていく意識の中で、シェルダンとクインの会話を耳にする。 シェルダンこそ探偵だった。友人のフィリップから、妻に毒を盛られそうになった、との話を聞き、送られて来た錠剤と共にここを訪れた。 ただ、決定的な証拠は無かったので、様子を見守っている間に次々と死人が出て、しかもマーゴットが投身自殺を図ったので、戸惑っていた。 シェルダンは、クイン(そして瀕死の状態のマーゴット)に、告げる。 毒入りの錠剤をフィリップが送って来たのは事実だが、それがマーゴットの仕業だとする証拠にはならない。フィリップの妄想、もしくは自作自演と片付けられる可能性が高かった。マーゴットは、夫を亡き者にした後、何食わぬ顔で未亡人として夫の財産を相続していれば良かったのだ。仮に殺人だったと発覚し、逮捕・起訴された所で、莫大な財産を手にしているので、敏腕弁護士を雇って、疑惑を一蹴出来ただろう。何故マーゴットが罪を次々と重ね、投身自殺したのか、さっぱり分からない、と。 そこまで聞いた時点で、マーゴットは息を引き取った。 解説: 犯人が、自分を追い詰めるであろう探偵を探す羽目になるという、通常のミステリとは逆の展開。 こうした発想は、アイデアとしては面白いが、いざ小説として成立させるとなるとアクロバチックなストーリー運びにならざるを得ない。 本作も、元のアイデアを強引に成立させようとするあまり、ストーリー運びやキャラ設定に無理が生じている。 主人公は、犯人でもあるマーゴット。 女優だったが、芽は出ず、同じく女優志望だった女中のトムリンソンおばさんを伴い、大富豪のフィリップと結婚した、という設定になっている。 夫を殺害して莫大な財産を相続する、という野望の為に綿密に計画を立てて実行に移すのかと思いきや、言動が全て行き当たりばったりで、計画性も何も無い。 思い付きで行動に出るから、当然ながら夫にばれてしまう。 夫を殺した後は、やって来た4人の訪問者から探偵を探し出す羽目になるが、これも行き当たりばったりで行動するだけ。落ち着いて考える、という事をしない。 ミラーが探偵なのは間違いない、と確信しておきながら、殺した後は「もしかしたら違っていたかも」と思い直し、残った訪問者をまた疑う。 次にケイツを探偵だと決め付け、ミラー殺害の際の反省を活かす事無く、またあっさりと殺害。しかもまた「もしかしたら違っていたかも」と思い直している。 ミラーとケイツを探偵だと思い込んだのは、些細な事で、裏付けは取れていない。にも拘わらず殺人に至ってしまう。 しまいには、長年連れ添って来た女中まで殺す。 ここまでガンガン殺せば、墓穴を掘るのも当然。身の破滅は、自業自得としか言い様が無い。 せめてフィリップから虐待を受けていて、殺さざるを得なくなった、という設定にしておけば、少しは彼女に同情出来たかも知れない。しかし、そういう設定にはなっていない。マーゴットの我儘振りと自己中心的な言動だけが際立っている。 こんなキャラだから、共感出来ず、主人公の運命どころか、物語そのものにも興味を失ってしまう。 探偵が誰だか分からない、という設定なので、最後に探偵である事が判明するシェルダンも、探偵としての行動は全く起こさない。 傍観者として見守るだけで、マーゴットが罪を重ねるのを許してしまう。 能動的な探偵だったら、フィリップの死が病死でないのを解明出来た筈だし、ミラーやケイツの殺害は阻止出来た筈。それだと、「犯人が探偵を探す」というストーリーが成り立たなくなってしまうけど。 最後の最後になって自身が物凄く優秀な探偵であるかの様に「真相」を語られても、説得力に乏しい。 書かれたのが1950年代頃とあって、現在から見ると奇妙に感じる部分が多い。 女中のトムリンソンおばさんが登場するが、フィリップの家の女中ではなく、マーゴットが連れ添って来た女中で、マーゴットがフィリップと結婚した際にはそのままフィリップの家の女中となった、という背景を理解するのに、かなり読み進むまで理解し辛い。 マーゴットはフィリップ、ミラー、ケイツを殺しているが、いずれも手の込んだ殺害方法ではない。現在の科学捜査ならたちまち偽装が発覚してしまうと思われる。 当時の捜査方法でも、マーゴットに疑惑を向けられる充分な要素はいくらでもあるが、結局警察は積極的に関わって来ない。この状況では、殺人なんてやり放題だろう。マーゴットが安易に犯行を重ねてしまうのも、無理が無いと言える。 本作は文体も古臭く、長々としていて、読み辛い。 登場人物が何故か台詞を延々と喋る。現実では、ここまで一方的に喋り捲る人間はいない。 小説そのものはそう長くないのに、読むのが苦痛だった。 奇を全くてらわないミステリは最早ミステリではないが、奇をてらい過ぎても作者の自己満足で終わってしまう、の典型的な例。 著者は、破れてしまった新聞記事から事件の被害者を特定する、という変則的なミステリでデビュー。この作品の成功で、変則的なミステリを出し続ける羽目になってしまった様である。 本国アメリカでは、第1作以外は凡作しかない、と現在は評されている。 変則的でない、王道のミステリを執筆する機会に恵まれていたら、少なくとも本国ではもう少し高く評価されていたかも。逆に日本では忘れ去られていただろうけど。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2018.04.21 20:13:38
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