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2021年08月02日
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湯平の放浪詩人

由布院のお隣に湯平温泉という情緒ある温泉場がある。
石畳の坂道沿いに旅館が並んでいる。
夜ともなると、旅館の灯すあかりに映えて石畳が輝く。


そのような湯平温泉に、昔、ひとりの放浪詩人がやってきた。

雨が降っていた。石畳がすっぽり濡れていた。
湯平温泉街の昼下がり、雨のためか人の通りはない。
石畳の両脇には、旅館が連なっている。遠くは霞んでいる。

一人の男が歩いている。破れかけた笠 を被っている。破れた足袋に草履。
頬には白い髭を生やしている。無精髭といってもいい。
眼鏡はいかにも度が強いといった感じである。
やせこけた頬に、旅の疲れがひしひしとあらわれていた。

一軒、一軒……男は托鉢をして回る。雨音のためか、どこの家から誰も出てこない。
男はひたすら念仏を唱える。ひたすら念じる。
泊まる先はあるのだろうか。食事はしたのだろうか。
細い足がかすかに震えている。念じる指先が青白くなっている。
肩を落として、次の家へ行く。雨が冷たく男の肩を叩く。

旅館街のはずれにある一軒の旅館に男は佇んだ。
旅館というよりも、普通のあばら家、そんな佇まいだ。
看板に書かれた消えかけている名前でかろうじて旅館とわかる。

男はひたすら念じた。念じて念じ終わると、鐘をひとつ鳴らした。
瞬間,建て付けの悪い戸が音をたてて開いた。
ひとりの少女が出てくきた。

「お坊さん、うちは貧乏な旅館だからお金もお米もあげられないの。
でも、熱いお茶ならあるから、中へ入りなさいな。
それから、恥ずかしいけれど……お芋ならふかしたのがあるから食べていただけますか」

男は深く頭を下げた。
眼鏡の奥の瞳にひとつ光るものが浮かんだ。

男は、結局、旅館「湯平」に三泊することになる。
そして、ひとつの句を残した。

「時雨るるや 人のなさけに 涙ぐむ」

男の名は、山頭火という。

山頭火の話、詳しく知りたい人は、湯平にある『時雨館』に行くといい。

人は旅をする。人生は旅だ。よく言われる。
しかし、人生の旅には辛い時が少なくない。
だから……人の情けがとてつもなく嬉しくなるのだ。





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最終更新日  2021年08月02日 04時08分22秒
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