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2008.06.11
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カテゴリ:yuuko
帰りの電車に揺られながら、ユウコは、高崎のことを思う。ごめんね、先生。わがまま言って。でも、先生なら、分かってくれるよね。妊娠したと気づいてから、癖になっている下腹部を撫ぜる仕種。ユウコは、撫ぜながら、高崎に言われた言葉を思い出す。
『相手は、彼なのか?』
高崎がそう思うのも無理はなかった。でも、高崎は、そんなはずがないことにもすぐに気づいたはずだった。ユウコが彼と別れることは、2人で高崎にも相談に行き、出した結論だったのだから。

『ユウコに子供を産むことは無理だということですか?』
『無理ではありません。ただ、産むならユウコさん自身の命の保障はできない、ということです』
しばらくの沈黙の後、彼は聞いた。
『どうしようも、、ないんでしょうか?先生』
『ユウコさんが、子供を産むということについては、主治医の私からは、あまりに危険だということしか申し上げられません』

彼の父親は政治家だった。彼の祖父もまた政治家だった。彼も、今は会社員だが、そろそろ身を固め、父親の秘書になろうという時期だった。ただ、愛や恋、だけで、結婚できるような相手ではなかった。愛しているからって何もかもがうまくいく、と考えるほど、ユウコも子供でもなかった。ましてや自分のような体で、結婚なんて。。

ユウコと彼は別れることにした。

もちろん、ユウコは、彼を恨んでなどいない。あてがわれた婚約者には目もくれず、2年間もユウコを家族から隠し続けて愛することで、大切に守ってくれた(彼の家族に、ユウコの存在が知られていたら、一体何をされたかわからない)。
しかし、ユウコは彼の夢を知っていた。
ただ、彼がその家に生まれたから、というだけではなく、政治家という職業に、大きな夢を持っている彼を。そして、自分がいずれ作る道筋を受け継ぐはずの自身の子供を、早い時期に求めていることも。
そう、正確に言えばユウコには子供を産むことはできる。産むだけなら。。でも、子供を産めば死ぬ、それを知った彼に、ユウコを妊娠させることはできなかった。彼には、そんなことできるはずなかった。なぜなら、彼はユウコを愛していたから。

だから、ユウコは、何も言わずに微笑んで立ち去った。彼も引き止めなかった。これでよかったんだ、とユウコは思った。子供を作れないことに目をつぶって、周囲の反対を押し切って、結婚したとしても、私は、あとどれだけ生きられるのかも、分からないんだから。子供を産まなくても、あと、どれだけ生きられるのかも、分からないんだから。元々、結婚なんて望んではいなかった。ただ、自分に残されたわずかな時間を、愛する人と過ごせるならと思ったのだ。彼は、ユウコが望んだ以上に、ユウコを愛してくれた。それが、今から思えば、申し訳なかった。

そして、ユウコは彼を忘れることにした。

胸の激しい痛みは、病気のせいだと考えることにして。

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最終更新日  2008.06.12 02:51:41
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