10.ママさんの涙と思いと祈りと。
10.≪ママさんの涙と思いと祈りと。≫ もう一度、その日(ママさんがわたしにのことを告白した日)のことに戻りたいとます。 「『B型肝炎』って知ってる? あのね、私がそうだったの」と、まずママさんが言った時・・・わたしもびっくりしたにはびっくりしたのだけど、どこか静かな気持ち、というのか、「ああ、ここにも肝臓のトラブルを抱えている人がいたんだな」という感じでした。きっと、何度かの肝臓での入院や、特に今の主治医がは肝臓の専門医ということもあって、いろんな原因での様々な症状の患者さんがたを見ているせいか、肝炎とか肝臓がんとかいう言葉には、少し慣れてしまっているのかもしれません。 けれど、ママさんはそうではなかった。のちにも「こんな話は、一生、家族の中だけの話としてしまっておくつもりだった」と言っていたように、本当に、悩んで悩んで・・・わが家に話す決意をしたという様子でした。わたしには、それが感じられたし、ママさんの気持ちをを受け入れてあげたいと思ったし、そうしないと今日の話は進まないのだろうとも感じたので、こう答えました。『うん、知ってるし・・・わかりますよ。わたしも若いころ、B型肝炎って言われたことあるから・・・』するとママさんは、『ええっ・・・?!』という、驚きと叫びが混ざったような声をあげて・・・深呼吸をするみたいに一度大きく息を吐いてから、それまでのことを話してくれたのです。 ・鈴之助ちゃんには抗体ができていなかったと知った時のショック・・・(5~10%の確率らしい)・「どうして鈴之助が、鈴之助だけが?」といつも思ってしまったこと・「自分のせいだ」と感じ、「守ってやらなくてはならない」とご主人と自分の秘密にしてきたこと・主治医からは「今は自然に抗体ができる(=肝炎を発症する)のを待ってみよう」と言われていること ・「少し貧血気味らしいから時々診てもらおう」と嘘の理由でずっと検査を受け続けてきたこと・高校を決める時も、体のことを最優先させなければいけなくて、 鈴之助ちゃんの望むすべてをさせてあげられなかったこと・2~3ヶ月ごとの検査の度に「どうか抗体ができていますように」と祈って、今日まで来ていること 『にに子ちゃんとおつきあいが始まって「いつかは話さなければならない」とわかっていたけど、 「中学生らしいおつきあいをしなさい」「にに子ちゃんを大事にしなさい」と聞かせてきて、 鈴之助は理解してくれていると思っていた、 というか・・・そう信じたかったのかもしれない。それより先のことはまだだろう、って・・・。 だから正直なところ、@@さんから聞かせてもらうまではまったく気がつかなかったの。 鈴之助には、高校に入る前に、もう自分のからだのことを知っておくべきだと思って、 はじめて本当のことを話したのね。 そうしたら鈴之助は「おかあさんのせいじゃないから」って言ってくれたけど・・・ でもきっと、鈴之助はにに子ちゃんのことをだいすきで、きっと・・・許してください。 @@さんが言ってくれたように、 ふたりがそうなったのは、考えてみれば自然な気持ちだし、流れだったのかもしれない。 だけど、主人とも話して、そういうことがわかった以上、 @@さんに黙っているわけにはいかないと・・・。本当に話すのが遅すぎてごめんなさい。 鈴之助には我慢してほしかった・・・ 病気のことを考えたら、それは我慢させなきゃいけないのね。 もっと大人になって、鈴之助の状況も変わったり、結婚を考えるような時が来るまでは・・・ あの子には、普通のおつきあいはさせられないの。 すきな人を大事に思うなら、なおさらこらえていくように考えさせなくちゃならない。 だから、映画を観に行ったり、食事に行ったり、カラオケしたり・・・っていう、 小学生でもするようなおつきあいしかさせられない。 でも、それじゃあ、鈴之助とおつきあいしてくれる子がかわいそうだものね。 こんな訳なので、@@さん、どうかご主人にこのことを全部お話してください。 ご主人も、きっと「そんな奴とは、娘はつきあわせられない」って言うと思う。 当然だと思うの。うちにも娘がいるからよくわかる。 おとうさんおかあさんにしてみれば、にに子ちゃんを守らなければっていうのは当然だし、 そう考えたら、鈴之助はとんでもない相手だと思うもの。 にに子ちゃんも、このことを知ったら引いてしまっても不思議はないし・・・。 だから、どうかご主人に話していただいて・・・、 そして、「鈴之助とはつきあわせられない」ということになれば・・・、 ぜひ、気を使ったりしないで言ってください。 うちの方は・・・ 鈴之助がどんなに納得しなかったとしても、 このことは私たち夫婦の力で・・・私たちが責任を持って、そうさせますから。』 わたしは、話を聞きながらどれくらい泣いたかわからない。ハンカチもぐしょぐしょになり、ティッシュも何枚もいただいて鼻もかんだ。こんなことって・・・かわいそうすぎる。今は健康で、ほかの人と何にも違って見えない鈴之助ちゃんが、どうして?鈴之助ちゃんのせいではないのに、もちろんママさんのせいでもないのに、これから楽しいことがいっぱい待っているはずの若い鈴之助ちゃんが、どうしてなんだろう。そして、にに子は・・・親だけじゃなく彼氏まで、同じような病気を(病気のタネを)持っているなんて・・・これも「さだめ」なのかな、そういう人のそばにいるような「運命」なのかな、だとしたら、この子もまた、かわいそう・・・ 『わかりました。帰って主人にも話します。 にに子にも抗体検査をしてきます。 だけど、その結果がどうだったとしても・・・主人に話してみなくてはわからないことだけど、 このことで主人が「ふたりをつきあわせない」と言うことはないと思います。 そのことを最終的に決めるのは子どもたちでないといけないと思います。 にに子にも鈴之助ちゃんのこともママさんの気持ちも、事実を全部聞かせて、 鈴之助ちゃんにもわが家のことを話してもらって(にに子も肝炎に全く関係がない訳じゃないこと)、 ふたりがきちんと話をして・・・この先起こりうる可能性のことも含めて理解させて・・・ その上でどうするのか? ということを、本人たちが納得できる結論を、 まだ子どもだとはいっても自分たちで覚悟を持って決めさせなければ・・・、 わたしたちは、その結論を見守っていくしかないんじゃないかと・・・ そうするしかないと、わたしは思うし主人もそう思うと思います。 だけど、もしもわが家で、 にに子が理解もして「それでも鈴之助ちゃんと」という答えを出したとしたら、 ・・・それは、鈴之助ちゃんのおうちにとっては、かえって迷惑ですか?』『@@さん! 迷惑なはずないです・・・もし、そう言ってくれるとしたら・・・ 鈴之助にとっても、私たちにとっても、そんなにうれしい事はないです。』『検査結果を見ないとわからないけど、もしも、にに子に抗体ができていれば・・・ うつることは、まず無いということだと思うんだけど・・・100%ではないのかもしれないけど・・・』『・・・!』ママさんはビックリして息を飲むような声(?)を出したけれど、それ以上は言ってならないというように、ただ、黙って何度もうなづいて・・・それから深く頭をさげました。 それから、わたしを送ってくれる車の中で、ママさんはこう言いました。『今日、こんなふうにわが家の話を受け止めてもらえるとは本当に思ってなかったの。 肝炎のことをわかっている人が近くにいるとも思ってなかった。 「誰にも言えない」って思ってきたけど、今日@@さんに話ができて、 今、とてもさっぱりした・・・というか、とても気持ちが楽になったよ。 本当に本当にありがとう。 よろしくお願いします・・・。』