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カテゴリ:文化
中国における保護活動の18年 文化遺産学の再構築を 天津大学・中国文化遺産保護国際研究センター 青木 信夫
大切なのは重層的理解 新たな日中協力態勢にも期待
私が長期にわたる渡航を決断した理由は、改革開放により変貌を遂げていく中国において、文化遺産の保護を巡る諸問題の解決に戦略的に取り組むことの必要性を痛感してのことだった。 2006年9月、天津大学(前身は中国最初の大学・北洋大学堂)からの招聘を受けたことを機に、彼の地の文化遺産の保護に向け赴任し、以来、16年に及んでいる。さらに、慶應義塾大学在職時に、彼の地の文化遺産の保護に向け赴任し、以来、16年に及んでいる。さらに、慶應義塾大学在職時に四川省成都における西部大開発計画に応じて主導した国際共同研究の期間を含めると、都合18年にわたる。 赴任後、スタートアップ・プロジェクトとして取り組んだのが、「開発の最前線における文化遺産の保存と地域の活性化に向けた戦略的国際共同事業」(トヨタ財団研究助成)であり、私の中国における諸活動の直接的な原点といえるものである。 それは大きく四つの内容に分けられる。 まず、時代によって可否が分かれ錯綜する文化遺産の保護体制や理念について、現在にいたる変容過程を文化史的に捉え直し、国際協力の前提となる文化遺産の認識について解明する。次に、現地文物局、さらに国家文物局との共同作業を通じて、当該遺産の保護・再生計画を立案。最終的に、文化遺産保存の国際的研究拠点の形成、ならびに「文化遺産学コース」の設置を通じた包括的高度専門人材の育成を目指す、というものだった。 研究拠点の形成については、2年の準備期間を経て、中国文化遺産保護国際研究センターとして08年に認可され、初代の主任(センター長)として学長から任命を受けた。幸い、全国的にも高い評価を得て、現在、直轄市・天津市の重点研究基地、ならびにシンクタンクにも是正されている。
私が最初に担当した保護事業は、シルクロードにある「麦積山石窟」の保護計画だった。麦積山石窟は敦煌の莫高屈、大同の雲崗石窟、洛陽の竜門石窟とともに中国四大石窟の一つに数えられている。 ユーラシア大陸の東西交流史において重要な役割を果たしたシルクロードは、その歴史的意義から世界遺産への登録が目指され、その第一号として中国、カザフスタン、キルギスの関連遺跡など計33件が14年に「シルクロード:長安―天山回廊の交易網」として登録。麦積山石窟は構成資産の一つとされたが、保護計画はその重要な根拠とされた。 この国境を超える世界遺産は、〝他国と共有する〟という観点に大きな特徴があるが、それは世界遺産条約に掲げられた〝人類が共有すべき「顕著な普遍的価値」を持つ〟という理念にも合致した大変シンボリックな登録案件とも言える。 実は、世界遺産登録に向け、中国が国際的基準にのっとった遺産保護に大きく舵を切ることになったのは特筆すべき出来事で、その波及効果はきわめて大きく、国指定重要文化財をはじめ、それ以外の文化財についても適応されつつある。
古代の遺産ばかりが保護の対象ではない。近年、都市再開発やコミュニティーの問題など、近代の遺産を含め、文化遺産の保護を巡る状況は、以前にもまして厳しくなっている。ところが、当該分野の研究や専門分化が進み、遺産群の重層的な理解は置き去りにされ、直面する問題群の解決に向けた総合的な戦略が欠如している。これは、日中に共通する問題でもある。 こうした状況に鑑み、本年8月、国際日本文化研究センター(日文研)では、私の提案に基づき、所内外の研究者の参加のもと、学際的かつ国際的に当該問題を議論し、対外的に発信していくことは極めて重要と考え、新たな研究領域として「文化遺産の再構築」を立ち上げた。 「文化遺産学」の広大な地平を俯瞰した時、日文研のある京都は実に恵まれた立地にある。世界遺産や伝統文化が集積していることはもちろん、所轄官庁の文化庁も本格的な移転に向けて準備を進めている。さらに、日文研は梅原猛初代所長による長江文明の現地調査など日中共同研究の実績がある。 キックオフの研究会では、有形から無形にわたる文化遺産の修理・保存といった概念だけでなく、何を文化遺産とするかの枠組み、次世代への継承や果ては地域環境問題など、議論は白熱した。しかしその一方、協力体制に目を転じるなら、日本は中国文化遺産保護に資金援助や技術指導を長年にわたり行ってきたものの、中国の経済発展や日本の内向き思考で、近年はほとんど途絶えつつある。 願わくは、この国際共同研究会を軌道に乗せ、文化遺産保護に向けた日中共同による国際共同プロジェクトを実現させ、日中間の協力態勢も再構築されればと考えている。
あおき・のりお 1960年、東京都生まれ。中国・清華大学客員研究員、慶應義塾大学助手、東京大学生産技術研究所研究員などを経て、天津大学建築学院教授、同大学中国文化遺産保護国際研究センター長、香港中文大学兼職教授。国際日本文化研究センター外国人研究員を併任。専門は、文化財保存、都市・建築史。中国政府友誼奨(褒章)。
【文化Culture】聖教新聞2022.10.27 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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February 25, 2024 04:11:59 PM
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