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カテゴリ:誌上セミナー
苦悩の中で使命の花を咲かす 総千葉学術部長 宮田 伸一
[プロフィル]みやた・しんいち 東京大学大学院修了。農学博士。植物医師。国立研究開発法人「農業・食品産業技術総合研究機構」に勤務。1968年(昭和43年)入会。54歳。千葉県柏市在住。副本部長(支部長兼任)。
食欲の秋。果実がおいしい季節です。果実の豊穣な香り、甘い味わい――。こうして、美味しく味わえるのも、農家の方々や研究者によって、新品種が開発されたり、栽培法が改良されてきたおかげです。 その陰では、植物を病気や害虫から防ぐための研究も、進められてきました。私が専門とする「植物防疫」という分野です。 人類の歴史を振り返ると、植物の病気や害虫によって食料危機が度々、発生しました。その度に社会は混乱に陥り、尊い人命まで失われてしまいます。優れた農業で被害を防ぐことができても、いずれ耐性を持った病原菌や害虫が現れかねません。そのため、常に研究を重ね、対策方法を更新し続けています。 かつて、〝あわや!〟という場面がありました。2002年(平成14年)、鹿児島・与論島などに「カンキツグリーニング病」が発生。かんきつ類を産地ごと全滅させてしまうこともある、世界的に重大な病気です。1988年(昭和53年)に沖縄・西表島で初めて確認されました。 2003年、現地に調査へ。山あいに植えられていた、1本のミカンの木が、与論島で最初に感染した木だったとのこと。この機を大切に育てていたご婦人が、悲しみながら、周囲に謝っていたと聞き、心が締め付けられるようでした。 〝このまま全国に広がったら、苦しむ方がもっと増えてしまう。真面目に働く農家さんたちを守りたい〟――自治体と協力し、奔走。被害の拡大を抑えることができました。 以来、「困っている生産者のために」をモットーに研究に励んでいきました。自身の学究の原点は、幼少期にさかのぼります。
必ず良い方向に 獣医師の資格を持つ父の影響で、生物図鑑や動物の骨格標本に囲まれて育ちました。〝同じ生き物でも、どうして形が違うのだろう?〟――幼い頃、目を輝かせながら図鑑をめくっていました。 生物の面白さを教えてくれた父に、がんが見つかったのは、私が小学校に入学する前。すでに病は進行し、父は生死をさまようほどに、死への恐怖と、不安で胸がいっぱいでした。それでも、毅然と病魔に立ち向かう両親の姿に、信心根本の生き方を教わりました。 父の闘病中、一家で池田先生とお会いする機会が。先生の温かな励ましに感動し、〝学業でお応えしよう〟と決意。父は健康を取り戻し、生涯の原点を刻むことができました。 北海道を出て、東京・創価高校の17期生として入学。その後、大学の農学部で遺伝子工学を学び、29歳で博士号を取得しました。 しかし、希望する就職先が見つかりません。非常勤研究員2年目になり、将来への不安が募る中、父の大腸がんが判明。ショックを受けた母は、心労で一家生前健忘症に。追い打ちをかけるように、自身が2度の交通事故に遭い、右腕を骨折。研究にも支障をきたしていました。 相次ぐ苦難に、〝ここで一家の宿命を乗り越えるしかない〟と奮起。それまで苦手だった友人への対話など、学会活動に全力で挑戦しました。題目を真剣に唱え、男子部の同志と共に行動する中、前向きな自身に変わっていくことを実感。〝必ず良い方向に進める!〟との確信が込み上げてきました。 すると、ある日、大学の恩師から「新たな研究分野で、助手として働かないか」との話が。電話を持つ手が震えました。以来、植物防疫に携わるようになり、現在の研究機関に移りました。
如蓮華在水 それ以降も、平たんな道はありませんでした。 7年前、異動先での仕事が多忙を極め、終電で変える日々。職場の人間関係にも悩んでいました。妻のおなかには第2子が。〝今こそ信心の基本に立ち返り、活路を開こう!〟と決心し、地域の学会活動に励みました。 法華経涌出品には「如蓮華在水(蓮華の水に在るが如し)」の法理が説かれています。蓮華は、泥の中から生えますが、泥に染まることなく、美しい花を咲かせます。 池田先生は、「如蓮華在水」について『法華経の智慧』で語られました。 「私ども地涌の菩薩は、世間の泥沼の真っただ中に入っていく。決して現実から逃げない。しかも、絶対に世間の汚れに染まらないということです。なぜなのか。それは『使命を忘れない』からです」 自身の使命とは――「妙法の学術者」として、社会に貢献し、多くの人に安心を与えることだと定めてきました。私は悩みの渦中でしたが、唱題を根本に、同氏との触発を通して、忍耐強く仕事を全うすることができました。この時の仕事が土台となって、現在、生産者・自治体・研究者を結ぶ役割を担っていきます。 気候変動や世界情勢が深刻化し、食料価格が高騰する中、食料の安定供給は、私たちの生活に直結する大事なテーマです。これからも、自ら決めた道で、使命の花を爛漫と咲かせていきます。
視点 譬喩の力 「桜梅桃李」「三草二木」――仏法では、植物の譬えを通した法理がいくつもあります。また、創価の友は、自ら考えた譬喩も使いながら、仏法対話に励んでいます。釈尊が譬喩を用いて法を説くことについて、天台大師は、『法華文句』で、次のように記しています。 「仏の大悲はやむことなく、巧みなる智慧は無辺に働く。ゆえに仏は譬喩を説き、樹木を動かして風を教え、扇をかかげて月を分からせる。このようにして、真理を悟らせるのである」(趣意) 法華経や大聖人に、譬喩が多く用いられるのは、〝一切衆生を幸福に〟との慈愛の発露ともいえます。譬喩とは、仏の慈悲と智慧の結晶なのです。
【紙上セミナー「仏法思想の輝き」 命を支える「植物医師」】聖教新聞2022.10.30 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
February 26, 2024 04:09:19 PM
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