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カテゴリ:書評
植民地化する前のアフリカ社会 作家 村上 政彦 アチェベ「崩れゆく絆」 本を手にして想像の旅に出よう。用意するのは一枚の世界地図。そして今日は、チヌア・アチェベの『崩れゆく絆』です。 アチェベは、まだイギリスの植民地だったナイジェリアのオギディ(現・アナンプラ州)に生まれました。両親が熱心なキリスト教徒だったため、その感化を受けましたが、故郷の伝統文化や祭礼などには親しんでいたようです。 彼は、ナイジェリアにあったロンドン大学ユニバーシティ・カレッジ・イバダンで、植民者の言語である英語、ラテン語などを学びます。このころ読んだヨーロッパ作家たちの小説――ジョゼフ・コンラッド、グレアム・グリーンなどが描く「野蛮なアフリカ人」というステレオタイプなアフリカ人像に反発し、真のアフリカを知らせようとして書かれたのが本作です。 物語の時代は19世紀の終わり(故郷がまだイギリスの植民地になる前の時代です)。舞台はウムオフィア(森の人々)という架空の村。主人公の若者オコンクォは18歳でレスリング大会に出場し、7年間もチャンピオンだった力自慢の男を倒す。以来、彼の勇名は周辺の土地まで広がった。 父のウノカは椰子酒に溺れて、働きが悪い。好きな季節は「ちょうど雨季が終わり、毎朝うつくしくまばゆい太陽が昇る。それに北から冷たく乾いたハルマッタン(乾季に吹く貿易風)が吹き付けるので、さほど暑くならない。年によっては猛烈にハルマッタンが吹きすさび、あたり一面濃い靄に包まれる。そんなときには、老人や子どもは丸太をくべた炉のまわりに座って暖をとった」。 父がこういう調子なので、オコンクォは早くから家族を養うようになった。やがて「二つの納屋いっぱいにヤム芋を蓄え、三番目の妻を迎え」る裕福な農民になる。2度の氏族間戦争で勇敢に戦い、故郷では「もっとも傑出した人物」として尊敬を勝ち得ていた。 物語は3部に分かれて、1部と2部では、ウムオフィアの豊かな自然や、集落を合議制で営む様子、祭礼などの伝統行事や、婚礼、呪術師のふるまい、といたイボ族の生活や文化が描かれます。 3部は、銃の爆発で少年を殺してしまったオコンクォが罪を償って村にもどった7年後が描かれ、そこに植民者の白人が現れます。彼らはキリスト教の伝道師といて村に教会を立て、ついで学校を造ります。村人たちは、白人を受け入れる者と彼らの支配から逃れようとする者に分断され、長く保ち続けてきた「絆」が断たれてしまう。オコンクォのとった行動は――。 アチェベは、あえて植民地となる前の故郷を描き、すでに忘れ去られている文化や伝統を再生し、ヨーロッパとの接触によって曖昧になったアフリカ人としてのアイデンティティーを回復しようとしました。彼が「アフリカ文学の父」と称されるゆえんです。 [参考文献] 『崩れゆく絆』 栗飯原文子訳、光文社古典新訳文庫
【ぶら~り文学の旅⓭海外編】聖教新聞2022.11.9 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
March 3, 2024 06:22:35 AM
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