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March 6, 2024
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カテゴリ:コラム

汽車の情感

早稲田大学名誉教授  中島 国彦

 

今年は萩原朔太郎没後80年、今全国で「萩原朔太郎大全」という名の展覧会がひらかれている。各地の文学館が、自分の館が所属する朔太郎資料を展示し、盛り上げようとする催しだ。日本近代文学館でも、若き日の手書きの歌集「ソライロノハナ」(1913年作)の現物を中心に、12月から展示コーナーを計画している。この資料は、「月に吠える」の強烈な世界を打ち立てる前の、ある女性への思いを記したもので、淡い紫のマーブル氏を自分で切ってそこにペンで短歌を書いて綴じ合わせた、情感豊かな1冊である。複製も出ており、私も時折それを手にする。

朔太郎は、同じ時期に「夜汽車」という題の詩を書いた。「有明のうすらあかりは」と始まり、夜行列車でまもなく朝の京都に着くという背景が浮かび上がり、隣にいた女性と窓からの後継を眺め、「ところもしらぬ山里に/さも白く咲きてゐたるをだまきの花。」の2行で終わる、平仮名の多い詩で、初めて読んでから、自分もいつか夜行列車に乗ってみたいと思った。

それが実現したのは、はるか後のことである。夜分に上野を発ち、岩手県の花巻に、早朝に着いた。友人たちの待つ遠野に向かう普通列車の発車まで、街を横切って、宮沢賢治がこよなく愛した北上川に向かい、朝霧の中を歩いた。

夏目漱石の足を訪ねてロンドンにしばらく滞在した1984年には、漱石も訪れたというスコットランドの保養地ピトロリクに出かけた。なれないイギリスの夜行列車に身を横たえ、目覚めると暗闇の中に山間の光景が見えた。昼過ぎの列車でロンドンに戻ったが、異国のことでもあり、あの時の半日の体験は何だったのだろうかと思い出す。「夜汽車」の3文字は、どうやら私にとって魔法の言葉になっているようだ。

 

 

 

【言葉の遠近法】公明新聞2022.11.16






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Last updated  March 6, 2024 07:10:55 AM
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