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March 10, 2024
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カテゴリ:文化

俳画を楽しむ

立正大学教授  伊藤 善隆

 

視覚的な要素と全てを描かない「余白」が魅力

「俳画」とは、省筆淡彩で描かれ、ある種の「俳趣」や「俳味」が感じられる絵画を指す。広義では必ずしも賛句を必要としない。つまり、画だけの作品も「俳画」と呼んでもよいのである。しかし、やはり見ていて面白いのは、画に句を添えた「俳画賛」であろう。

なぜ俳画賛が面白いのか。それは「余白」があるからである。すなわち、俳画の一番の特徴は、画面の中に全てを細かく描きこむことをせず「余白」を残すことにある。いっぽう、短詩型文学である俳句もそれと同じ。たとえば、芭蕉には有名な「いひおほせて何かある(物事を言い尽くして、後に何が残ろうか)」(『去来抄』)という言葉がある。つまり、博雅も俳句も、余白が大事なのである。この画と句の余白の組み合わせが、俳画賛の本質であり、魅力である。

たとえば、このしかを描いた図版の作品の場合はどうだろうか。何とも不思議な姿態をした鹿である。角があるから鹿だろうと理解はできるが、頭の形は尖った三角形、胴体は中途半端に細長く、いっけんカマキリのようである。描かれたのは鹿の姿だけであって、この鹿がどこにいて、いったい何をしているのか、といった説明的な要素は描かれていない。

いっぽう、賛には「終夜(よもすがら)なかで暁の鹿の声」とある。「一晩中待っていても鳴かなかった鹿だが、ようやく暁になってその声を聞くことができた」という句意。題に「暁夢(あかつきのゆめ)」とあるから、この句の作者は、待ちくたびれて明け方にはウトウトと居眠りしてしまったのだろう。秋に牡鹿が牝鹿を読んで鳴くことは、古くから和歌に詠まれてきた秋の風物詩である。それを聞きたくて一晩中待っていたというのだから、この作者はかなり風流人である。ただし、この句に詠まれたのはそこまで。鹿の声やその姿については言及がない。

しかし、この作品では、以上の画と賛を合わせて鑑賞することになる。それだけ情景や印象も広がるのである。たとえば、この作品をみたときに真っ先に目に飛び込んでくるこの鹿の姿。おそらくほとんどの人が、「これは何だろう?」と疑問を抱くだろう。その答は賛句を読めば解決される。つまり、俳画賛には、ナゾナゾの答え合わせのような楽しさがあるのだ。その上で、この極端にデフォルメされた姿から、牡鹿の妻恋のせつなさを感じ取れることもできるだろう。また、この句の主題は鹿の鳴き声、すなわち聴覚である。そこに鹿の姿という視覚的要素が追加されることで、句の印象や味わいはより具体的である。

この賛画は三浦樗良(享保14年~安永9年)の作品である。樗良は、文学愛好家や専門家の間では著名な俳人だが、一般的にはほとんど知られていないのではないだろうか。あの有名な蕪村と同時代に活躍し、蕪村とも親交のあった人物だが、蕪村とは作風のまったく異なる、しかも独自の魅力を持った賛画を数多く残した。

さて、江戸時代の俳句と言えば、何といっても芭蕉、そして蕪村、ついで一茶が有名である。しかし、自身も俳画作品を多く残した渡辺崋山は、蕪村は高く評価しても、芭蕉の俳画は評価していなかったようだ。崋山の俳画論を載せる『崋山先生俳諧画賛』を見ても、芭蕉に関する言及が無いのである。ともすれば、江戸時代の俳画を見ていくことは、これまでの理解とは違った価値観で俳諧を見ていくことになる。それは、江戸時代の俳諧(俳句)の隠れた魅力を発見することに繋がるのである。

(いとう・よしたか)

 

 

【文化】公明新聞202211.20






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Last updated  March 10, 2024 06:14:57 AM
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