辰之助さんの歌舞伎を観たことがないのに
きっかけは忘れてしまったけれど
素敵な人だなって思ったことは忘れてなくて

前の歌舞伎座の時の幕間は、
辰之助さんの写真の真ん前に座って、お弁当を食べていた



いつも同じ方ではないのに、なぜか辰之助さんファンの
ご婦人が隣にいらして、素敵だったのよとお話してくださる

そんな時間が好きだった

今は勘三郎さんと團十郎さんと三津五郎さんのお顔を見るのが
まだつらいので、その廊下の前に立ち止まることさえ出来ないけれど

芝翫さんと富十郎さんくらいになれば
国ちゃんたち兄弟も児太郎君もがんばっていますよ、
鷹之資君の踊りは既に皆さんの認めるところですよと
語り掛けながら、ってのもいいかもしれないけれどね

その辰之助さんの三十三回忌なのに、知らない演目だなと思っていたら
それがどうして、もう一度観たくなるような素晴らしい舞台だった

松緑さんと辰之助さんはタイプが違うと思うけれど
松緑さんの新助、良かったな。
ちょっと籠釣瓶花街酔醒の次郎左衛門みたいなとこもある
真面目でまっすぐな人

玉三郎さんと仁左衛門さんが
あの天女のような、神様のようなお二人が
新助をちょうどいいカモとしか思っていない女とその情夫を
なんとも巧く演じているので、新助の哀れさ、みじめさが際立つ

松緑さんの熱演をガッチリ受け止める大きさのある二人だからこそ
悪い女に騙されたおバカさん、だけでなく深いテーマが見えるというもの

二人して　あちゃーと言う感じで、気の毒そうな　バツの悪い顔をするところがある

根っからの悪党ではない、
そんな風に生き馬の目を抜く都会で生きてきただけなんだ

だから、こっちは悪気がないのに、どうして
田畑まで売っちゃうなんて思い切ったことをしちゃうかな
普通、そこまでしないでしょ、なんでしちゃったの？

二人からしたら、新助がウラメシイかも

辰之助さんの追善で改めて松緑さんに注目して観ていたら気づいたことが

名優の誉れ高い2代目、若くして惜しまれながら亡くなった父上に
教えてもらうことは出来ないのに、お二人と比べられるから
相当プレッシャーなんだろうと気をもんだり、
当代松緑さんは、松緑さんらしく良い役者さんになってほしいなどと
余計なお世話かもしれない想いを抱くのは私だけではないでしょうが

新助を観ていたら、当代尾上松緑はすっかり大人の立派な役者さんに
なったんだなって、しみじみ

新助に親身になる歌六さんも惚れ惚れイイ男。

名月八幡祭、観られて良かった！