陽のあたる丘の上の診療所 前編
疲れたら 休んでていいぐずぐず だらだらしてていい前向きに生きれなくともいい何か社会の役に立たなければなんて思わなくていい世の中のお荷物だなんて感じなくていいできないからと、老人は恥じることはないいつか 病がそっと包み込んでくれて優しく、いいところへ連れて行ってくれますよ 四十五十は洟垂れ小僧、人生は60過ぎてからが楽しいもんだよ、なんてね、強がりを言う年寄りがいるが、へっ、歳を取っていいことなんざありゃしねえよ、60で還暦、70で古稀、80で傘寿、90で卒寿、100で紀寿のお祝いなどと、はしゃいでみても、ふんっ、何が目出度いものか、身体も頭もだんだんに弱って、棺桶に片足突っ込んだまま、未練がましく命を繋いでいるだけのことだ。 世間様に同情されて、迷惑がられて、日々を過ごすってことが歳を取るってことなんだ。目は霞み、歯は抜け、髪の毛は薄くなり、屁は漏らす、小便は漏らす、ついでに大便もとくる、膝が痛い、腰が痛い、肩が痛い、血圧が上がり、血糖値が上がる、体のあちこちが痛み、血管が詰まりはしないか、癌ではないかと怯え、判断力は鈍り、体力も記憶力も衰え、疲れやすく、頑張りもきかない。おまけに身体のあちこちに染みが浮き出て、張りのない汚い肌になって醜態を晒すだけのことだ。 お姉ちゃんよ、間違っても、、80歳の老人を掴まえて、「おじいちゃん、元気ですね、とてもお若いわ、80歳になんて見えない、人生まだまだこれからですね、青春とは年齢なんかじゃありませんものね、心の持ちようですよ、これからも、頑張って、溌剌とした人生を過ごしてくださいね」 なんて、腹にもないお世辞で、爺さんをおだてちゃいけねえよ。爺さん、股間の道具の方は、ちょい漏れの小便以外は役立たつだが、助平心だけは元気なものだから。「姉ちゃん、ありがとよ、人生これからもう一度青春よ!今度一緒に混浴の温泉にでも行こうか、かっかっかっかっ」と、嬉しそうに笑ってみるのが精一杯。 特定検診などという健康診断を半ば強制的に受けさせられ、「この頃疲れやすいのです」などとうっかり言うものなら、やれ、血圧が高い、コレステロールが高い、血糖値が高い、太りすぎ、運動不足、塩分、糖分は制限し、酒は一日一合だけと、通告される。 追い打ちをかけるように、人間ドックで検査したほうがいいなどと、勧められ、嫌々大きな病院に行かされる。大病院の待合室、うへっぃ、すさまじい患者の行列、みんな病気持ち、それもやっぱり年寄りが多い。 内科、外科、整形外科、尿検査、血液検査、胃の検査、腸の検査、レントゲン、一日がかりのたらい回しで、検査を受け、薬をいっぱいもらって、飲んで、塗って、貼って、だからといって病気がよくなるわけでもねえんだ。 内臓が悪いですね、運動不足ですね、太りすぎですね、旨いもの食いすぎですよ、などと言われ、精神的に追い詰められ、行きはよいよい帰りは病人、かえって体調が悪くなることもしばしばだ。 病気をもらってくることさえあるから病院は要注意だってえの。なんでぃ、金と時間を使って、悪いところを指摘されただけで、ちっともいいことありゃしねえ、と、愚痴をこぼして病院への恨みつらみをぶつぶつ言ってたら、「山口さん、いい診療所がありましたよ、陽の当たる丘の上の診療所です。私はその医者に救われましたよ、、もう、ここの大学病院は卒業です。大卒ですよ、はっはっはっ」と、80歳は過ぎているだろう、渡辺さんに言われた。(つづく)作:朽木一空※下記バナーをクリックすると、このブログのランキングが分かりますよ。またこのブログ記事が面白いと感じた方も、是非クリックお願い致します。にほんブログ村