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2016.01.11
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カテゴリ:江戸珍臭奇譚 
雨あがり.jpg

女の尻の穴から御馳走が降ってきたぞぅ、、、

「への字、いつまでくしゃくしゃ食べてるんだい、早くしないと、おまんま口の中で糞になっちまうよ、早飯早糞芸の内ってんだい、さっさとおしな、天気がいいや、今日も忙しいよ!」
 お菊のお姫様言葉も、長屋に住んで二月もたつと、すっかりお江戸のべらんめえ調が板についてきていた。暗く閉じこもった娘時代、駿河屋甚衛門との夫婦生活で、すっかり明るさを無くしていたが、もともと、お菊はちゃきちゃき、さばさばしたおてんば娘だった。お菊にあの明るいおてんば娘が目覚めたともいえた。
「へいっ、糞にならねえうちに食べますでぃ」
 平次ことへの字は蜆の味噌汁と飯を交互に腹に流し込んでいた。貸し便屋を始めてから、平次はお菊の手下となって働いていた。なにしろお菊は財布の中身の心配がないので、気前が良かった。
 昼飯はたいてい蕎麦かうどん、たまに鰻、夕飯は料理屋で、酒も一合ついてきた。お菊もいつもにこにこして働くへの字が気に入っていた。世話を焼いてもらっているお礼のつもりもあったのだろうが、長屋に帰るときには饅頭や煎餅、団子や飴などの土産を買ってきて、長屋のおかみさんに配ったので、長屋での評判も上々だった。

 弥生、雛祭りを終えると、桜の花見の本番である。向島の隅田川堤の桜も満開で、花見客でごった返していた。
 八代将軍徳川吉宗公が「質素・倹約ばかりじゃ庶民もつまらぬだろう、何か楽しみもなくちゃ面白くねえ」ということで、墨田堤に、飛鳥山、御殿山に桜を植えたのがお花見の始まりで、今では桜も大きくなり、江戸庶民はこぞって花見に出かけるのを楽しみにしていた。
 だがねえ、花見客が墨田川の土手を踏んで固めてくるのが吉宗公の本当の狙いだったとはたまげたねえ。蕾が膨らんで、花が咲き、すぐに散ってしまうのが桜、またその華やかさと空しさ、潔さよさが江戸っ子の心を掴んでいた。
 パッと咲いてパッと散る、人間もこういう生き様じゃなきゃ粋とはいえねええなと、八十を過ぎた老人が後悔してる。天気も小春日和、隅田川の土手には、ぞろぞろぞろぞろ、花見客がやってきた。
 ところが、普段は土手には葦や萱が茂っており、その中にしゃがんで、誰憚ることなく、用を足せるのだが、花見となれば、押すな押すなの人込みで、立小便でも気が引けるのに、着飾った娘や、おつにすました娘子が大便をもよおしたら、それは地獄なのである。脂汗を流して、もじもじ股を擦りあわせて、えいっ、それでも我慢の限界、恥も外聞もない、出物腫物所嫌わずだが、群衆の中では尻は捲れない。葦の原に駆け込んで、着物を捲り、ぶりっと、人目も草もいとわずに野糞たれの女の野雪隠。
「やいやい、今年の花見はお土産つきよ、粋な姉ちゃんのうんこたれ!!」と、悪餓鬼や、破落戸どころか、誰でも女子のうんち姿は覗いてみたいのである。どこぞの大名の奥方ならば、おつきの人が周りをぐるっと囲んで、隠すが、それでも、ぷーんといい匂いは隠せない。そこで、頻便のお菊が考えた商売が貸し雪隠である。

 両国橋から、水戸様の下屋敷を過ぎれば向島、隅田川の土手には葦簀掛けの茶屋に見世物小屋が所狭しとずらりと並んで、客引きをしていた。てんぷら蕎麦、醤油の匂いが香ばしい焼き団子、江戸鮨、鰻の蒲焼、変わり飴玉、金平糖、食べ物だけではない、楊枝に箸売り、盆栽、、藁細工、かざ車、風鈴、などの物売りもここが商売だとばかりに軒を連ねる。
 それに見世物小屋、人魚姫、猫女、ちょいとした空き地ではへびつかいに猿回し、居合抜きに蝦蟇の油売り、両国の広小路が引っ越してきたような賑わいだ。わっしょいわっしょいの商売繁盛である。
 桜堤の真ん中あたりに、大きな幟が二本風に揺れている。『貸し雪隠、お菊の間、、一回六文』と書かれている。着飾った女がおつにすまして列を作って、行列は途切れることがない。次々と女が並ぶ。そこだけが、桜の花に負けないくらい艶やかな空気が漂っていた。
 花見の客がそこで渋滞する。押すな押すなの大盛況である。隅田川に杭を打ち込んだ葦簀張りの貸し雪隠の小屋が三つ並んでいた。下が大川なので、大便小便は垂れ流し、ぽちゃんとやれば、雪隠の下には鯉や鮒が集まって、ぱくっぱくと口を開けて、女の尻穴を覗いていた。
『貸し雪隠、お菊の間』は大当たりだったのである。

 だが、桜の花は命短し、十日も過ぎれば終わってしまう、終われば向島も閑散として、貸し便屋も終いである。
「へいの字、また、貸し便屋をやりたいねえ」
「お菊さん、あちこち人が集まるところはあるんですがねえ」
 花のお江戸にははしょっちゅうお祭りごとがある、浅草三社祭り、神田祭り、あちこちの八幡宮にお稲荷様のお祭り、それに相撲に花火、どこかで祭りごとがないことのほうが少ない。人が集まることが大好きなのが江戸っ子である。
 なんとか、移動する厠で一年中商売ができないものか。だが、貸し便屋をするには川がなくては垂れ流せない。狭くて流れの弱い堀では糞尿が貯まって、いざこざのもとになりかねない。
 江戸では「水は三尺流れて清し」と云われ、すぐ川下では、米を洗い、野菜を洗い、顔を洗うのだった。お菊はなんとか上手い方法がないものかと思案していた。

 お菊が長屋でへの字に爪を切らせているとぷーんと、糞甕(くそかめ)を掻き回す臭いが漂ってきた。
「おや、きょうは汲み取りの日だったね、へいの字、障子を閉めな」
 きょうは、十日に一度、宗兵衛長屋の糞汲に、下掃除人の『でく』が来る日だった。長屋の連中は、
「さっさとたのむよ、でくのぼう」などど悪態をついて、長屋から一時避難するか、油障子をぴたっと閉めて臭いを遮断する。
「そうだ、!!」
 お菊の頭がひらめいた。でくが大家の宗兵衛に挨拶をして、肥桶を担いで、よっこらしょっと、長屋の木戸を潜ったところで、
「ちょいと、でくさん、話があるんだけどさあ」といって、懐から金平糖を一掴み出してでくの手のひらに乗せた。
「こっこっ、こんぺいとう、おっ、おらあ、食べたことねえんだ、きっ、きっれいで、たっ、食べるのもっもっもったいねえ」
「いいからお食べ、でくさん、ちょいと聞くがね、その肥桶いっぱいで糞代はいくらになるんだい」
「いっ、一年分、まっまとめて、おっ、親分から、あっ、預かってくるから、よっよくわからねえがにっ、二十文くらいには、なっ、なるんじゃなええかな」
「でくちゃん、その親分のところへ私をつれてっておくれ、ほら、金平糖」
「でっ、でも、親分のいるところは怖いところだよ、おっ、おから村とと呼ばれていて、そっ、外からは誰もこないところだよ」
「おから村ねえ、でも大丈夫、ねっ、つれてって」
 お菊はまた金平糖をでくの掌の上に乗せた。


(つづく)

作:朽木一空
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最終更新日  2016.01.11 12:56:20
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