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2016.07.11
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カテゴリ:高論歩事件帳
お墓.jpg

どう歩いても、早くても 遅くても
楽しても 苦労しても 笑っても 泣いても 
行きつく先はみな同じ
歩いていく先には死が待っています
生きることは、死に向かって 歩くことです
一度しか味わえない死を、後悔することなく楽しみませんか
せめて最後は自分の意志で棺桶に蓋をしてみませんか
「ああ、面白かったなあ」と、思いながら往生いたしましょう
          極楽寺 楽匠和尚

 ネットで見つけたこの文章に松山武史は身震いがした。二年前の4月に65歳になって退職し、さて、これから、どう生きていこうかと、暇を持て余し、やることもなく、ぼんやりした日を過ごしていた時だった。特別不満があるということでもないが、ただ、このままだんだん歳を取って、萎んでいって死んでしまうのだろうかという不安があった。
 矢も楯もたまらず、松山武史は山里深い極楽寺へ足を運んだ。そこへ行けば、死を待っているだけの生活から抜け出して、なにか新しい生き方が見えてくるかもしれないという淡い期待があったのだった。

 極楽寺の楽匠和尚はにこにこして迎えてくれた。
「ええええ、人間産まれた時から死に向かって歩いているんですよ、生きるということは死に向かって歩いていくことですからね、誰も避けることはできないんですよね、けれどもね、人間はですね、産まれてくる時は選べませんが、死ぬときは選べるのです。これは人間だけができる素晴らしいことなんですよ。何もすることがない、なにをやってもつまらない、生きていても意味がないという人はもう十分生を全うしたということなんですよ。寿命は皆にあるのです。それが多少長いか短いかの違いです。少しの寿命を延ばすために喜びを避け、我慢をし、苦しい辛い日々を過ごし、周りの人に迷惑をかけ、不幸に巻き込むのはのはどういうものでしょうかね、今までの人生を汚してしまうもったいない話です。充分生きたら後は死ぬことです。そして最後は自分の意志で『ああ面白かったなあ』と思いながら死ぬことです。
 ですから、この寺へ入る人はみなさん死んでおります。生前葬をします。そして、みなさん自分のお墓もつくります。その後は シンデレラ シンデレラ ですから、なににも縛られず、何の心配もなく、すべてのことから解放されて、楽しく楽に過ごし御臨終です。なにしろ寿命をまっとうしてすでに死んでいるのですから、、、お金のこと、病気のこと、夫婦のこと、子供のこと、近所のこと、政治のこと、明日のこと、なんにも気にしなくていいのです。誰にも気を使う必要もありません。いらいらすることもありませんし、怒る必要もなくなります。心が軽くなって、ああこんな人生があったのだと思いながらああ面白かったと思いながら本当の御臨終を迎えるのです松山さんも、いい死に方をしたかったらいらっしゃい」
 松山武史は楽匠和尚の話を聞いて、ますますこの極楽寺に魅入られてしまった。

 そうだ、高齢者になり、よたよたになって、不自由になり、呆けがくる、癌がみつかる、長生きすればするだけ嫌がられるのだ。親の犠牲になるのは御免だ、夫の犠牲になるのは御免だ、自分のことは自分で完結して迷惑かけないでくれと、きっと家族の者も思っているだろう。
 地獄の介護だけは避けたいと、やがては老人施設に捨てられて、チューブに繋がれて、自我も忘れ、土壇場に来て、意識もなく惨めな姿で生涯を終わる。そんな老後が見えていた。もうすぐそこまで来ていた。
 ああ嫌だ、捨てられる前に自分で捨てよう。楽匠和尚の言うとおりだ、俺の人生は自分で蓋をしよう、人生は一度なのだ、それにも必ず終わりがある。死ぬために生きてきたのだ、最後はきちんと自分の意志で、格好よくおさらばしたいものだ。
 自殺ではなく自死だ。死を自分で選ぶのだ。女房、子供に話しても理解されないだろう、産まれてきた時は一人なんだ、最後も一人で決めよう。松山武史は決心した。
 そして、離縁状を書き、自分で財産分与をして、逃げるようにして、極楽寺に入ってしまったのだ。生前葬をして、墓石には「色即是空」と彫ってもらった。もう、気に病むことは何もなかった。なにしろ、松山武史は シンデレラ シンデレラ なのであった。
 高血圧、糖尿病で我慢していた、煙草を吸いお酒を飲む、健康管理などいう言葉に惑わされずに、我慢せずに食べたいものを食べて暮らす、それがシンデレラの生活だった。そのほうが、かえって体調がよくなってきている気さえしていた。
 ちょっと長生きするために、残りの人生を犠牲にして永らえようとしていたことが無駄なことに思えていた。今、松山武史は「ああ楽しいなあ、面白いなあ」という日々を過ごしていた。

(つづく)

作:朽木一空

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最終更新日  2016.07.11 14:19:49
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