『生殖可能性』のショートショート小説(星新一風)
だいぶ久しぶりな投稿です。今日ツイッターに同じものを投稿したんですが、ツイッターは長文が読みにくいのでブログにも残しておこうと思いました。会話劇になっちゃってますが、読んでいただけると嬉しいです。~~~~~~20××年 TOKYO。白で統一されたやや殺風景な部屋。同じく白で統一された未来風の服装の男女が手を取り合ってカウンターに向かってきた。手には書類を持っている。「ぼくたち、今日結婚します。手続きお願いします」表情一つ変えない係の者が書類にさっと目を通し、言った。「二人のIDの提示もお願いいたします」カードからコードを読み取り、係の者はコンピューターの画面で情報を確認する。画面の一部が赤く表示された。『生殖可能性 NG』係の者は表情一つ変えずに、再びカウンターに向き合う「申し訳ありません。書類は受理できません。あなた方のDNA情報をお調べしたところ、子供を作れる可能性は0%です」「現在『婚姻』は政府が決めた方針に従い『生殖可能性』という規定があります。婚姻制度は、将来の納税者を産み育てられる二人に限り、税控除やその他の支援制度を受けられる仕組みです。子供を作れない二人の場合は、婚姻を認めることができません。申し訳ありません」「今ですと同棲を支援する制度も充実しておりますので、そちらのご案内をいたします」思わずお互いの顔を見つめる男女。女性が焦ったように抗議する。「…すみません、今までそんなこと一度も言われたことありません。確かに「全国民DNA調査参加要請」の時に血を提出しましたけれど、その後そういう通知を受けたこともありませんし、そんなこと今言われても、信用できません!」「全国民DNA調査参加要請」は、国が国民のDNAを把握しデータ化するためのもので、その結果を報告する義務はありません。婚姻制度の可否を確認する際、現在ではそのDNAデータと照合し『生殖可能性』を判定することになっています。お二人のDNAは、それぞれ別の方と結婚すればパーセンテイジが上がる可能性があります。残念ながらお二人のDNAの組み合わせがよくなかったようです」男性は怒って言う「ばかなこと言わないでください! 僕たちは愛し合ってるから結婚したいんです! 」「仮に子供をつくれる可能性が低くとも、じゃあ別の人と結婚しますとなるわけないじゃないですか!」係の者は相変わらず表情を変えずに言う「お気持ちはお察しします。ただ政府が決めた規則なんです。好き嫌いで決めているわけではありません。」「今、日本は少子化が深刻なんです。ご存じでしょう。子供をつくれる可能性のない二人が長く一緒に生活したところで、国にとっては何もメリットがないのです。」「また、そういう二人を税金を使って支援することもできません。婚姻受付時に『生殖可能性』をお調べし、一人でも多くの方に、子供を…将来の納税者を増やすことを目指してほしいと国は思っているのです。感情面は二の次です」やや泣きそうな顔の女性が言う。「学校では結婚は愛する者同士が末永く共に生きるための制度だと学びました!」「納税者を増やすなんてそんな!…そんなつもりで結婚したいんじゃありません!」数々の批判を聞き慣れた係の者が淡々と言う。「国はダブルスタンダードですからね。あらゆる人の生活を守ることが前提ではありますが、お金を増やす人と増やさない人を同等に扱うことはできないんです。将来国を支えられる子供をつくれる人が必要なんです」男性が言う「この国はそんな冷たい国なんですか! 国民は機械か何かなんですか」係の者が言う「いえ、勘違いされぬよう。国は国民一人一人の幸せをせつに願っております。ただし、全国民の生活状況、経済状況、健康状況が異なる以上、その幸せの定義が複数存在するのは当然ではありませんか。全てはこの国が反映していくための制度なんです。ご理解ください」 終