岩波新書からラグビー関係の著書が出たのは大西鉄之祐「ラグビー荒ぶる魂」以来10年ぶりのことか。早慶明中心で語られる日本の大学ラグビーの視点を関西の同志社大学に据えて考察した。同志社の岡仁詩氏の伝記的記述の著書だが、私は岡氏に一度だけ公式の席でお会いしたことがある。それは京都で開かれたラグビー団体の安全対策会議の席でのこと。岡氏は日本ラグビー協会の安全対策委員長の立場にあった。その時どうして安全対策委員長を引き受けられたのか興味を持ったが、ご自身がかつて1年生の選手を死亡させる事故を経験しておられたことをこの著書の中で知った。そのときの経緯は、第5章「転機」で述べられている。「学生をへばらしたらいかん。へばると人間、思考が鈍くなる」と学生をしごくコーチを諌めた。
岡氏は大学教員だからラグビー部のことだけやっていれば良いわけではない。大学紛争期には学生部長の職にあった。団交の場で学長の横に座った岡氏に「学長の用心棒メ、引っ込め」と罵声を浴びせた神学部学生自治会委員長だった滝田敏幸氏との交流は興味深い。滝田氏の神学部の友人には佐藤優氏(現在外務省ラスプーチン事件!で公判中)がいたそうである。
ラグビーとは縁のない一般学生だった滝田氏は、卒業後クラブチームでラグビーを始める。大阪城グランドの常連だったそうだ。家業を継ぐため故郷の千葉県に帰った後は地域の町興しにラグビーを取り入れ、同志社ラグビー部を招待する「ラグビー祭典イン千葉」を仕掛けた。正規の競技場ではない単なる利根川河川敷グランドの土手(堤防)が観客で鈴なりになった。この企画が契機となって印西町(現在は市)はスタンドの付いた立派な球技場を作り、いまも「印西ラグビーフェステイバル」として続いている。
いまの大学ラグビーに問われていることは、地域社会との連携である。大学は地域のラグビー活動の核としての役割が期待されている。安易な「産学協同路線」に陥っている日本の大学の現状は憂うべき現象であるが、リベラルな京都学派!!からこの隘路から抜け出す切っ掛けを探り出して欲しい。