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カテゴリ:創作物件
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入り江の中ほどより手前に白いクルーザーの浮かんでいるのが小さく見えた。何事があったのか、甲板を男たちが右往左往している。人数は五、六名といったところ。中にはレンガ色のライフジャケットを羽織った者もいた。お互いに何かを呼び交わしているようにも見えたが、声はここまでは聞こえてこない。こちらの岸に打ちつける規則的であるような、そうでもないような、いつまでも続くひとつながりの波の音だけが、耳に届いてくる。クルーザーは揺れているのかも知れなかったが、バルコニーから見る限りでは全く動いていないかのようだった。ただ甲板を行き来する豆粒のような大きさの男たちだけが、静止する風景画の中の落ち着かない描点のようで、いささか滑稽だった。 (つづく) →NEXT お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2005年07月11日 03時24分26秒
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