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カテゴリ:創作物件
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しかしながら、葉巻状に散らばりながらマテガイの一対で結節し、再び広がってまた次のマテガイで収束し、そうやって繰り返していく貝殻の分布の繋がりは、目の先に伸びる一条だけではなかった。肚からこみ上げて来る予感の塊を吐き出すために視線を強いて左へ移動させてみると、貝殻の分布の繰り返しは一条の線的なものではなく、案の定、左横にも同様の繰り返しが見られた。全く同じ構成の貝殻群が、全く同じ散らばり方で、元の一条の横に完全に平行してまた一条、そしてその向こうにもまた一条と、食堂の方へ向かって繰り返しをどこまでも繰り返している。見方を変えれば、貝殻は、前後に伸びる線型の繰り返しで分布しているのではなく、任意の一つの貝殻を中心として、床の上を、いくつかの方向へ同じ構成を繰り返しながら、どこまでも放射状に伸び広がっているのだ。 厨房兼用のこのパントリーだけではなく、食堂の床にも玄関ホールの床にも寝室の床にも、同じパターンの貝殻の繰り返しが見られることは確実であると思える。今になってそれに気がつくとは何と迂闊なことだろう。いや、もしかすると遥か以前にこのことには気がついていたのかもしれない。床の貝殻のパターンのことは知っていたのだが、その知っていたということの記憶をつい最近、例えば先ほどこの床に這いつくばる動作をしたその瞬間に、失くしてしまったのかもしれない。自分が今なにをしようとしていたのか、ここにこうして這いつくばっているその動機についても危く忘れそうになっている。わたしは慌てて床下収納庫の蓋の取っ手探しを再開した。きれいな繰り返しパターンを描く貝殻群の中に、形か位置か、それとも埋め込まれた向きのいびつなものがないか。床下収納庫の蓋の輪郭線あるいは収納庫の用をなす穴の縁とわたしが仮定する直線の矩形の内側に埋め込まれた貝殻を、わたしは一つずつ調べ始めた。 (つづく) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2005年08月22日 03時35分55秒
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