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カテゴリ:考える
本田氏が自分で「言葉人間」という一面を持っている、と本書で述べていますが、まさに語りかけてもらうような感じで読める本です。
「『私の手が語る』本田宗一郎著 講談社文庫」 言葉は易しく、内容は短くどこからでも楽しめる、といった構成で本田氏のサービス精神がたくさん詰まっています。 しかし、「本田哲学」がしっかりと行間にこめられています。 「むろん、歴史はただの記録ではない。いつわりも、あやまりも、真実も、気まぐれや偶然や、時代時代の気分によっていろいろなかたちをとりながら伝達されてきた情報だと私は思う。 わたしは、しばしば歴史の定説とされてきたものに疑問をなげかけてみる。一人の技術屋として、もし自分がそこにいたら、どのような生計を立て、どのように考え、どのように行動するかという想像を、なるべく理論的に組み立てるのである。そこで納得がいかないときは定説とされている歴史のなかに、きっと何かが不足しているのではないかと思うのだ。」 オートバイ革命、エンジン革命を行ったひとです。 歴史を情報ととらえ、理論的に解剖する。 そういったものの捉え方が、新しいものを生むのだと気づかされます。 「すべての社会的現象がスピードアップして、万物流転、有為転変の様相もたいへんすばやいものになってきた。つぶれることなど考えられなかったような企業が、ちょっとおかしくなるとみるみるうちに倒壊し、あんなちっぽけなという企業が、またみるみるうちに力をつけて成長する、といった具合である。 そういう変転きわまりない時代にあって、根本的に変わらないものがひとつある。それは何かというと、ひとの心というやつだ。飛躍したいい方になるが、思想であり、その根っこの哲学である。しっかりした思想と哲学をもたぬ企業は、これから先もつぶれてゆくだろう。 いつ、誰が、どこで受けとめても、なるほどと納得できる思想をもつかもたないか。」 20年以上、ホンダをひっぱり続けた人の、実感がこめられています。 本田氏にとって「車は命を預かるもの」が根本思想でした。 そして、自分の思想に照らしあわせて、「たとえ小さなひとつの行為でも自分の考えに対して忠実に行動すること」が仕事を進める上で欠くことができなかったという、自分に厳しいひとでした。 その例で、接待ゴルフをすべて断ってきた時期を経て、世の中が豊かになるころにようやく始めたと述べています。 「哲学、思想」とは本の中のことではなく、生活のなかにこそあることを教えてくれます。 そんな本田氏ですが、どうやら、仕事でかっと血が頭にのぼってしまうことを気にしていたようです。 あとですぐ反省するのですが、真剣に仕事をしていて失敗があると、つい、相手にぽかりと手が出てしまうのです。 ホンダ創業当時、組合からそれを問題にされたときは、寂しそうな顔をしていた、とホンダのもう一人の経営者であった藤澤氏が述べていました。 「他人の気持ちになれる人というのは自分が悩む。自分が悩まない人は、他人を動かすことができない。私はそう思っている。」 社員一同を引っ張るカリスマと呼ばれた本田氏。 その陰にじっと悩み考える一人の人間が浮かび上がってきます。 本田氏の人間像を追う、哲学を読み取る、ホンダの背景を読み解く。 さまざまな読み方ができる本です。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2005年04月11日 03時12分32秒
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