今日は外来も手術もなかったし、今週末の学会の準備でもしようかと思っていたら、外来師長から電話がかかってきました。西浦で溺れてCPAになった人が運ばれてきます。多分検案になるだろうから先生でいいですか
私は日本法医学会の死体検案認定医の資格を持ち、愛知県警本部長からは検視立会医の嘱託を受けており、変死体の検案はもう500件以上していますから、検死なら任せといてと答えました。
救急車が着いたというので、救急外来に行ってみると、先に麻酔科の先生が来ていて、もう挿管して心マッサージをしていました。まだ若い男性ですが、確かに心電図もflatだし、対光反射もなく、自発呼吸もありません。海でジェットをしていて落ちて溺れたらしいのですが、現場に救急隊が着くのに20分くらいそこから病院まで30分くらいかかっています。見た瞬間にこれは蘇生は無理だなと思いました。
しかし、20分くらい心臓マッサージを続けて、血管を確保し昇圧剤などを使っているうちに心電図上で波形が出だしたのです。とりあえず、ICUへ移しました。自発呼吸はありません。
1時間ほどして家族が到着しました。若い奥さんがすがりついて、「お願い起きてよ!頑張って!お願い冷たくなんないでよ!もう一度私を見てよ!名前呼んでよ!」と泣き崩れます。私は冷たく、低酸素が長く続いたための脳死状態で脳機能の回復は見込めないことを説明します。
現在は自発呼吸が少し出ていますが、反射はいっさいなく、血圧も昇圧剤を使って50台くらいです。戻る可能性は限りなく0に近い状態です。