モーツァルト 『ピアノ協奏曲23番』
昨日からずっとモーツァルトのピアノ協奏曲を流しながら、仕事をしています。やっぱりモーツァルトは、ピアノ協奏曲がいい。おそらくモーツァルトの音楽の中で、もっとも重要なジャンルは、交響曲でもオペラでも室内楽でもなく、まちがなくピアノ協奏曲だと思います。モーツアルトは全部で27曲のピアノ協奏曲を残していますが、私が聴くのはもっぱら20番以降で、お気に入りは何と言っても第23番です。透明でなんとも優雅な第1楽章。秋の夕暮れを思わせる哀愁ただよう第2楽。そして、明るく躍動感に満ちあふれた第3楽章。この1曲の中に、モーツァルトの音楽がもつすべての要素が凝縮されていると、言ったら言い過ぎでしょうか?それほど、どこをとっても隙のない完成された音楽のように思うのです。特に第2楽章の『高貴な孤独感』(変な表現だが)は、数あるモーツァルトの緩徐楽章の中でももっとも美しいメロディではないでしょうか?この曲がウィーンで初演されたのは、1786年の5月。ちょうどオペラ「フィガロの結婚」が初演されるわずか1ヶ月前のことです。この第23番と一緒に数少ない短調の傑作第24番も一緒に初演されました。言葉は悪くなりますが、モーツァルトは大作オペラの片手間仕事に協奏曲を2曲書き上げてしまったわけです。この事実だけとっても、モーツァルトの天才ぶりには、驚かされます。私たち常人には、想像を絶する驚くべき能力です。さて、この23番の協奏曲はお気に入りの曲だけに、私の手許には3人のピアニストの演奏を収めたCDがあります。最初にこの曲を聴いたのは、ブレンデル、マリナー/アカデミー管盤でした。このコンビのモーツァルトは、かつて一世を風靡し、現在でも彼らの『モーツァルトピアノ協奏曲全集』は、偉大な金字塔と言われています。私が所有している盤は23番と一緒に、モーツァルト最後のピアノ協奏曲となった第27番が一緒に収録されています。レコードの時代に初めて購入し、CDで買い直し、長く愛聴盤として聴き続けてきました。2枚目は、内田光子とジェフリー・テイト指揮イギリス管です。内田さんのモーツァルトも定評のあるところです。こちらのCDを手に入れてからは、ブレンデル盤がどうも平板に聞こえるようになってしまいました。内田さんのピアノは、何といても弱音の美しさが魅力的です。指の先までよく神経の行き届いた、とても繊細な音楽を聴かせてくれます。聞く側にある種の緊張感を強いるような、決してリラックスできるモーツァルトではありませんが、モーツァルトに対する内田さんと指揮者・テイトの思いが、ストレートに心に響いてくる感動的な演奏です。いま一番よく聴くモーツァルトは、内田さんの弾くピアノ協奏曲です。どの曲もとても素敵な演奏だと思います。3枚目は、アシュケナージがピアノと指揮を兼ね、フィルハーモニア管と組んだ演奏です。これは、数あるアシュケナージの録音の中でも、最高ランクに上げられる名盤中の名盤です。特に録音の優秀さは誰もが認めるところでしょう。こんなに美しく輝くようなピアノはめったに聴けません。これもブレンデル盤と同様27番が一緒に収められてますが、圧倒的にアシュケナージの演奏のほうが優れているように思います。このアシュケナージの録音は、グルダの20番とともに永遠の名盤として残っていくのはないかと思います。モーツァルトのピアノ協奏曲を1枚と言われたら、迷わずこのアシュケナージ盤を薦めます。今日はこのアシュケナージのモーツァルトを聴きながら、寝ることにしましょうか。-------------------------------------------------------------------●モーツァルト:ピアノ協奏曲第15番&第21番&第23番指揮: マリナー(ネヴィル)演奏: ブレンデル(アルフレッド), アカデミー・オブ・セント・マーティン・イン・ザ・フィールズ注:現在は23番と27番のカップリング盤は見あたらなかった。●モーツァルト:ピアノ協奏曲23 & 27番指揮: テイト(ジェフリー)演奏: 内田光子, イギリス室内管弦楽団●モーツァルト:ピアノ協奏曲第23番&第27番演奏: アシュケナージ(ウラディーミル), フィルハーモニア管弦楽団