アロスタシス と ストレス
アロスタシスallostasis アロスタシスは「ホメオスタシス」をもじった言葉で、ホメオスタシスが負のフィードバックによる定常状態の維持を示すのに対し、アロスタシスは同じくフィードバック機構による生体機能の調節を想定しながらも、その目標値が徐々に変化していく過程を示します。 この概念が単なる薬理学的耐性や鋭敏化と異なるのは、ストレス刺激に対する生体の適応的反応とその破綻という枠組みの中で生体が病的状態に陥っていく過程を総合的に理解しようとする視点にあります。 アロスタシスの考え方は、まずは純理論的に薬物依存研究に入ってきました。依存性薬物の摂取によって多幸感が生じたとします。生体は情緒的にも恒常性を維持しようとするので不快気分を起こす力が働きます。 薬物効果が減弱して多幸感が消退した後にはこの不快気分のみが残ります。これが“アロスタティック負荷”となり、次に薬物を摂取したときの多幸感は初期値までには達しません。このような経験を繰り返すと定常的な気分状態のセットポイントが徐々に不快有意の方向にずれていきます。 アロスタシスが薬物依存に関与しているかどうかを実証する研究はその端緒についたばかりですが、その解明が進めば、薬物依存をストレスに対する感受性の個人差などの生体側要因として薬物効果との動的相互作用として捉える視点が開かれるものと期待されています。 出典:ファルマシア 2003.7