『 地下鉄 』 Sound of Colors
地下鉄の入り口で天使に 「 サヨナラ 」 と言われた日から私の目は少しずつ 見えなくなった光のない世界にもひとりごとを言う自分にも慣れてしまった 15歳の誕生日私は 秋の雨にうたれながら再び 地下鉄へと向かう雨と風をのがれ おりていく地下道耳をうつのは こだまする私の足音だけ知らない街を あてもなく 歩いてみたかった私はどこまで 行くことができるのだろう人いきれの中で 自分の居場所を見失う起きているのか 眠っているのか もう私にも わからない……地下鉄の音は 象の行進を思い出させるどっしりとした歩き方が 私を安心させてくれる地下鉄を出ると 温かな日射し 舞い散る木の葉は 軽やかなメロディー落ち葉の中には 金色に輝く “ 幸せの一葉 ” が 隠されているというりんごは今でも 赤いのだろうか?おいしいりんごが もげるだろうか?人々を乗せて 地下鉄は通り過ぎるみんなどこから来たの?どこへ行くの?あわただしく行き交う人々出口で待っているのは 誰?子どものころ 話のできる魚が ほしかった心の底に沈めた悲しみを 語りあえたらステキ見上げれば 今でもそこに 青い空はあるのだろうか?白い雲なら 自由に 旅することが できるだろうか?はるか かなたに 潮騒の音を聞く海の向こうまで行けば 違う世界に 巡り会える?風に身をまかせれば どこかに たどりつける?飛ぶことを ためらってはいけない落ちることを 恐れてはいけない傷つくことが多いほど 人は強くなれる世界は 出口のない 迷路かりこまれた木々は 風に歌わない今日と昨日は どこがちがうの?明日 私は どこにいるの?これ以上 一歩も踏み出せない ときがあるどうどう巡りに さまようばかりいくども まちがった電車にのり まちがった駅でおりるどこに いるのか わからないどこに 行きたいのか わからない深い霧が 行く手をおおい ぬかるみに 足をとられた誰か私を ここから連れ出してください男の子に 道をきかれたできることなら 教えてあげたいもう一度 この世界を見ることができるなら 何が一番 見たいだろう?思い出の扉に 記憶の影が のびていく扉の向こうには 捨ててしまった おもちゃの兵隊今でも ちょっと 寂しげな顔をしているの?真っ暗な世界は 誰かのいたずら?手をのばしても 光には届かない角を曲がると 美しい旋律が 流れていた私のほかにも 傷つく人が?希望をさがそう 暗闇を恐れずに幸せは ほんの近くに 隠れているかもしれない飛び立つ勇気があれば 苦しみから逃れることができる明日を信じる心があれば 道を見つけることができるつまずき ぶつかって やっと気づく求めるだけでは 手に入らないのだと私は帰ろう 私の世界へうわさ話など あとに残して夕暮れの窓辺で 誰か私のために 詩を読んでくれませんか?人波のひいた寂しい窓辺を 誰か 温めてくれませんか?この世と別れてもいいと思っていた世界の美しさに気づかぬうちは今はただ 祈るだけ一幕の魔術を 一瞬の奇跡をどこかに きっと いるなくしたガラスのくつを 探してくれる人が美しい宮殿に 悪意が燃え上がる出会いのかげには たくさんの別れ永遠に走り続ける 地下鉄はない地下鉄の出口で 声をあげて泣いたすべてを 消し去る 雨の中でぬれてしまった服も いつかは乾く昨日の悲しみは 忘れてしまった忘れるくらいの 悲しみだったここは 終点?それとも 始まり?草が香り 小鳥がさえずると思い出す 遠い日の葬儀何かが始まり 何かが終わるたまには ゆっくりすわって 未来を語ろうとどまることを 責める人は ないけれど どこかにきっといるはず地下鉄の出口で 私を待つ人がその人は 私にかさをさしかけ 手を握り 一緒に歩いてくれるだろう生きていくことは いくつもの 驚き生きていることは いくつもの 喜び気づかずにいたけれど そばにいてくれた すべての人に 「 ありがとう 」 を地下鉄の通路で蝶の羽音を聞いた花咲く庭を 探しているの?私も 探してみよう真っ赤な りんごを金色の 一葉を心に輝き始めた かすかな光を『 地下鉄 』 Sound of Colors より 作:<ジミー>幾米 訳: 宝迫 典子ジミーさんとの出逢いは この1冊でした『 地下鉄 』 Sound of Colors