アーバンなライン上にある六実は単なる田舎町ではなさそうだ
六実駅は東武野田線―いつからか東武アーバンパークラインなどという失笑もののネーミングで呼ぶようになったようだが、ぼくはそれには断じて与せぬ意思を崩すつもりはないのであります―の柏駅から東に20分位の場所にある小さな駅です。今回初めて知ったことですが、駅の西側は松戸市、東側は鎌ヶ谷市と後者は、いかにもそうだろうなあと思うのですが、まさか松戸市がここまで広いなんて今回初めて知ることになりました。随分前のことになりますが、六実駅では一度下車したことがあって、その時は出張で訪れたこともあってじっくり散策することは出来なかったのですが、東葛地域では馴染みのある焼鳥店「鳥孝 六実店」を目撃していました。でも町の雰囲気もそうだったのですが、日中はゴーストタウンのように人通りもないし、商店街にも生気が感じられないので、もう辞めてしまったのではないかと推測しました。でもたまたま再び六実駅を訪れる機会が到来したのであります。であればまずはそちらを目指すことにし、記憶を頼りに向かうとなんの苦労もなくあっさりと辿り着きました。しかし、以前は失礼にも廃業を思ったそのお店はなんと満席御礼で、女性の従業員さんに丁重にお断りされてしまいました。さて、困ったどこに向かうことにしようか。 まったく下調べもせずに急遽六実に来ることになったので、路頭に迷うかというとそんなことは少しもなかったのでした。なぜなら、満員御礼の焼鳥店は駅前の寂しい目抜き通りを突き当たって、右に折れたところにあるのですが、そのすぐの路地の奥の方に赤提灯が棚引いているのを目撃していたのでした。砂利道の細い通りは近隣の方たちも多く―といっても同時に数名が行き来する程度であるけれど、この町では同時に人の姿を目にできる場所は限られているようです―暗いけれど、危なっかしくはないようです。その赤提灯の酒場は「大衆酒場 つる家」という渋いとしか言いようのない店名と安普請な構えで一気に気分が高揚します。店内に入ると当然のように客の姿はなく、最初店の方も見えなかったのですが、しばしのインターバルの後にかなりの高齢のばあちゃんが姿を現しました。むむむ、わざわざ好き好んでウィークデイに足を伸ばしただけの価値はあったというものです。天井には元はカラフルであっただろう黒ずんだ提灯が吊り下げられ、カウンターの向こうには座敷としても使われることがあったのだろうか、茶の間のような空間が見えています。この抜群の場末酒場感はなかなか味わえるものではありません。聞くとこちらはこの町の最古参の一軒で匹敵するのが「阿久利」というお店であるという情報を得ました。ぜひともお邪魔したいが行くに行けぬ理由がある。こちらの主たるお客さんは、都会で一杯呑んだ地元民が帰宅前に一杯立ち寄ったり、近隣の酒場が店を閉めてそのお客さんや店の仕舞いが済んだ店の方たちが多いようです。だから閉店時間もお客さん次第ということで、前夜は3時まで開いていたとのこと。でも早く閉めたら閉めたで結局寝床に着くのは明るくなってからになっちゃうのよ、ですって。だから遠慮なく遅くまで居座っても構わないようです。しかし、田舎町の酒場らしくお値段は見かけによらず強気なので、実はここで残金は約1,000円と心許ないことになってしまったのでありました。だから「阿久利」は諦めたんですね。ここはいずれ「鳥孝」とハシゴしに来ることとしよう。 駅前の通りに「居酒屋立飲み ひで」というのがあるそうなので、ここなら1,000円でも何とかなるだろうと立ち寄ることにしました。SUICAがあるので帰りの運賃は何とかなると思うけれど、いかにも綱渡りなことをするものです。しかし、運賃だけでも馬鹿にならぬウィークデイの最果ての地まで来たのだから、一軒でおめおめと引き上げるわけにはいかぬのだ。タクシー会社の1階が立ち呑み屋となっているとさっきのお店でお聞きしました。新しい店ではありますが、店をやっているのが熟年夫婦なのでそこそこの年季を積んでいるように感じられます。奥様らしき方から最初は飲物1杯と肴1品の500円のセットをお勧めされたので、チューハイと揚げウインナーをいただくことにしました。闊達な印象のご夫婦だろうか、そのカップルの女性の方はなんと新宿まで毎日通っておられるようで、まあ確かに六実はベッドタウンらしいから通えぬことはないだろうけれど、ぼくには違和感があるのは傲慢な心境と言えるのでしょうか。彼女たちにとっては帰ってくる町であり、ぼくにとってはわざわざ訪れる町、この差は町へのイメージを明らかに違ってくるようです。 でもまあ六実はぼくにとってかなり遠い町だけれど、他にも古くからやってる酒場の事をお聞きしたからまた訪れる日はそう遠くないことだと思うのです。