テーマ:ブログは文学たりえるのか(74)
カテゴリ:旅の記録
【つづき】
はたしてその印刷物はソープランドの宣伝用リーフ レットであった。 然るべくして稔寺の手元を覗き込めるに、そこには 若い裸体を惜しげなくも晒した二十名ばかりの御婦 人たちが妖艶なる笑みなどを浮かべ表紙集合写真と 収まっているではないか。 思わずして顔を見合わせる俺と善児の様子に、脈あ りっ!と断じたか稔寺は、にたらぁ、などという具合に 昂然と笑うのであるからそのような稔寺の所作に俺 は古里札幌は、すすきの界隈に巣食う客引たちの姿 をつい重ねたのであり、彷彿とさせてしまったのであ り、懐かしくも思い出したのである。 懐かしいと言ってもそれはつい二日前のことである。 俺は、会社の女の子たちが催してくれた送別会にた いへん気分を良くし、元来がカラオケ嫌いであるに も関わらず、会社の女の子たちに「仁科さん、もう 二度と会えないかも知れないンだから最期に歌って 下さい。お願いします。先輩の歌声を思い出にした いンです。だから」なんて具合に、落とされてるか 持ち上げられているのかよく判らない声に背中を押 され、反カラオケの信など簡単にへし曲げた挙句に 調子よくもカラオケなんぞやっちゃう始末で、それ もその筈、当夜集まりたる会社の女子と言うのは前 年度の短大新卒者ばかり六名であるし、補強説明す るならばその六名の中には明眸皓歯な感じの子も数 名いたりするからには、その子らに煽てられ、別離 を嘆かれ、ちょっと涙ぐまれたぐらいにすると二十九 歳の健康な男子であるところの俺にして気分が良 くならない筈はなく、河島英五『酒と涙と男と女』 ボロ『大阪で生まれた女』山本譲二『みちのく一人 旅』なんか数曲を続けざまに熱唱そして絶唱。 「あんた、どのへんがカラオケ嫌いなの」 みたいなことを言われる体たらくだったのである。 って、あれ、話が脱線。で、そんな楽しい送別会も 朝がた引けるに揚々たる意気で以って家路を歩いて いるとそこは札幌ススキノであるから客引きに次々 と囲まれ、腕をつかまれ、肩や腰に手を回され、百 メートルでも付いて来られ 「お兄さん、お兄さんって。ちょっと遊んでいって よぉ。ねぇ。なに、お兄さん、どんな子がいいわ け?巨乳ちゃん?それともスレンダーな子?教え てよ。なになに、教えるくらいいいじゃない。獲 って喰おうって言うンじゃないンだからさ。え? 獲って喰うつもりだろうって?なんでなんでなん で?なんでそうなるわけ?お兄さんだって気持ち よくなるんだから獲って喰うのはお兄さんのほう じゃないの。ね。でしょう。ね、ね、とりあえず さ、写真見る?写真。ほらほらほら見て見て見て。 これ、菜々ちゃん。ほら、巨乳ちゃんでしょ。ね。 バスト95ってよ。え?なに?タイプじゃないの。 じゃ、ほら、この子はどうよ。元モデル。隣の綺 麗なお姉さんって感じでしょ。ね。タイプでしょ。 やっぱり。どんぴしゃ。え?なに?違うの?じゃ 誰がいいわけ?選んでよ。ほら、見て、ほら、ね、 十六名…じゃないね十五名。絶対タイプの子いる から。いいから見てよ。ね。ね。ね。ね。ね。ね。 写真見てもお金かからないからさぁ、ほら、見る だけだから」 と言う具合にして、弁舌も滑らかに、放っておけば 一週間でも喋り続けるであろう彼らにして勝手に 人の腕などを取り、二人三脚よろしくひたすらに ススキノの中を併走&トークを続けるのであり、 それでも幸いにして途中に地下鉄の駅があったり、 タクシーに乗ったりするから併走&トークの断念も あるが、これがもし駅もなく、タクシーも来なけれ ば彼らは何キロメートルでも併走&トークをやめな いそんなススキノの客引き特有の『不敵なんだけど、 でも、人好きのする笑顔』をバンコックの稔寺も又 持っていたわけである。 であるが、俺は此処で根源的疑問を覚えるに至った のである。それは、稔寺が小型オート三輪の運転手 であるのか、それとも、はたまた、もしくは客引きで あるのかという疑念であり、回答如何によっては当 方も稔寺との付き合い方を考えなくてはならないし、 ソープに行くなら行くでやっぱり事前の準備という ものが必要であろうと、俺は善児に問うたのである。 「どう?善児くん、行く?」 【つづく】 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2007.03.07 08:09:21
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