395. 『私には、what,where,when,who,why,howの六人の部下がいる』(ヘンリー・フォード)
※この文章は、2003~2006年に大学生・若手社会人向けに配信されたメルマガ『内定への一言』のバックナンバーです。395. 『私には、what,where,when,who,why,howの六人の部下がいる』(ヘンリー・フォード)赤坂ベローチェはこの7年間、僕の「隠れオフィス」状態だったのですが、FUNでもここをよく利用してきたことから、ここ数ヶ月は、行けば必ず誰かがいるという状態です。中でも、大月さんは学生さんの相談をここで行っていることもあり、ほぼ毎日のように見かけます。最近は「3日で差が付く就活対策」が人気ということで、新しい学生さんを見かけることも。3日の相談で不安が希望に、漠然とした期待が自信に変わるようで、相談に来る学生さんの表情も、どんどんにこやかになっていくのを、別の席で本を読む僕も見てきました。「連休中にモチベーションが下がりそう」「選考企業数がどんどん減って不安だ」「秋採用に切り替えた方がいいんだろうか」と思っている学生さんは、ぜひ相談してみるといいですよ。さて、本メルマガでは数々の「お金の稼ぎ方」に関する本をご紹介してきましたが、特に起業や出版活動を通じてお金を稼ぎたい方には、別途要望を聞いて紹介している本があります。これらの本を「マネー本」として紹介する人はいないのですが、普遍的な思想、哲学、人間心理を洞察した歴史的名著として、その当否はさておき、本気で人々を幸せにして成功したいなら、迷わずおすすめする本です。少なくとも、僕が今、こうして週休5日のゆとりある生活を送れているのも、空き時間を投じて学生さんの応援や執筆活動を楽しんでいるのも、若い頃に歴史的名著を読んできた影響が大きいです。そのうちのまず3冊とは…『藁のハンドル』(ヘンリー・フォード/祥伝社/\860)『国家と革命』(レーニン/岩波文庫/\480)『隷属への道』(ハイエク/春秋社/\3,000)です。他にも名著は多数ありますが、この3冊の共通点は、群集心理の性質と方向を見抜くのに非常に役立つということです。「藁のハンドル」は「仕事」という営みを標準化して巨大なエネルギーを生み出した大実業家の本、「国家と革命」は、僕は内容には賛同できませんが、世界中のありとあらゆる貧乏人が持つ嫉妬や憎悪の本質を書いた本です。「隷属への道」はレーニンが世界中にかけたマインドコントロールを打ち破り、人間性と国家経済の本質を説いた哲学書で、世界中の政治家や実業家が政府や企業といった組織の本質を知るのにも活用している本です。FUNで一番内容が深く、自分という人間と極限まで向き合える勉強会といえば、やはり「近現代史勉強会」で、職業、社会、お金、人間など、人生を決定するあらゆる要因に対して洞察が及ぶ名著を取り扱っています。時々「どんな部屋に住んでるんですか?」と聞かれますが、僕の部屋はいたって質素で、本と机とふとんしかありません。ちなみに、本は現在、2,500冊ほどを見えるところに置いています。ここでテーマを決め、名著をリストアップして5、6冊じっくりと読みふけり、ノートにペンを走らせていくと、思索が熟して発想が湧き出し、アイデアが縦横無尽に広がっていくのが、何より楽しい時間です。こういう書斎のような部屋に住んでいると、退屈そうに思われたりしますが、そんなことはありません。それどころか「問い」次第で自分の部屋が何百通りにも模様替えできるような楽しさがあります。フォードの創業者であるヘンリー・フォードが「問い」について持っていた考え方は、FUNの隠れ人気図書『大きく考えることの魔術』(ダビッド・J・シュワルツ/実務教育出版)にも書かれています。学歴のないフォードに対し、優等生たちが次々と難解な質問をしていじめを楽しんでいました。フォードは化学や物理、歴史、数学などむろん分かるはずもなく、「分からない」、「知らない」を連発し、そのたびに優等生たちは喜びます。そこでフォードは一言。「不勉強にしてその質問の答えは知らないが、その分野でアメリカ最高の人物となら、5分以内で連絡が取れる」。つまり、フォードは「細かい勉強などは、優等生にやらせておけばいい。自分は事業を構想し、ビジョンを決定するのが仕事だから、大統領や各界最高の人物とのネットワークを作り、最高の人物の頭脳を活用すればよいのだ」という割り切った考え方をしていたのです。いかにエリート大学を卒業した優等生であれ、アメリカ最高の人物を前にしてかなうはずもありませんから、いきなり黙り込んだとのこと。この逸話は、3年ほど前に本メルマガでも紹介しました。「リーダーと従業員は頭の使い方と発想を及ぼす領域が根本的に違うのだ」と。法律、経営、経済、商学、情報工学…こういう学問は「就職に有利」だといわれています。確かに、企業の中で行われている仕事と似通った内容を勉強していて、入社後に新たに学ぶリスクをいくらか軽減してくれそうなイメージはあります。それに対して、文学、歴史学、芸術、スポーツなどは、いかにも仕事とは無関係なことばかりやっていそうで、「就職に不利」という偏見さえもたれています。しかり。まさにその通りです。文学、歴史学、芸術学こそは「リーダーの学問」であり、昔から中国、朝鮮、日本のみならず、世界各国でもそうだったように、組織のリーダーはいつも文学や歴史学を学び、人間性の本質を見つめました。確かに「就職には不利」です。だって、リーダーは「就職させる側」だから。就職させる側は人材を各部門で活用し、可能性を引き出すのが仕事だから、そういう人には法律や経営、経済学を教えておく必要があります。「就職に有利」とは、そういう意味です。法律も経営も経済もそれぞれ有意義な勉強ですが、文学部、歴史学部、社会福祉学部、芸術学部の方も、人間心理の奥底を見つめる勉強をしているのだと、自信を持ちましょう。僕の実感としては、良き問いと、それに答えられる人脈や学習環境を持っておけば、学歴なんて仕事や収入にほとんど関係ない、というのが20代を生きてきた率直な感想です。僕は20代を通じてそういう環境を内外にクモの巣のように張り巡らせたので、今は、クモの巣に遊びに来てくれた人たちとのんびり楽しく、毎日を生きているだけです。僕って、本当に正真正銘の怠け者だと思っています。また、フォードの言葉としてユニークなものには、次のようなものもあります。「私には、what,where,when,who,why,howの六人の部下がいる」。この後は、「彼らに命令を発すれば、たちどころに最適な答えを運んできてくれる」と続きます。人ではなく「問い」を部下とみなすなんて、これまた規格外のユニークな発想だとは思いませんか?皆さんは日頃、この「人件費無料で24時間活動してくれる有能な部下」たちを、どう活用しているでしょうか。人生に良き夢やビジョンを持ち、良き仲間に囲まれ、優れた知識や情報を集めて正確な判断を下していく人は、最初から良い情報に恵まれているのではなく、良き問いを持って、それを外界に発した成果を手に入れているだけです。明るい人や成功する人は問いが上手で、暗い人や失敗する人は、問いが下手。なのに、暗い人は問いを変えようとせず、ますます答えばかり探そうと焦るので、自らデフレスパイラルに突入していくのでしょう。「間違っているのは、答え以前に問いだ」と気付いた学生さんは、みるみる明るくなって就活でも良い成績を出すし、その後の仕事も楽しんでいるものです。僕がFUNで4年間、学生さんの成長を見てきた限りでは、やはり大月さんの問いの深さ、上手さは一頭地を抜くものだと感じています。遠い未来に希望をともしつつ、日頃の仕事も着実にこなして、今では新聞や雑誌からも原稿を依頼されるほどの見識を手に入れた大月さんも、やはり「藁のハンドル」、「国家と革命」、「隷属への道」を以前読んで、「難しいけど面白い」と言っていました。身内の宣伝ではありませんが、短期間でぐんぐん成長したいと思えば、このような先輩を相談相手に持ち、一生「5分で連絡が取れる関係」になっておくのは、非常に有意義なことだと思いますよ。問いは誰もが平等に持つ優れた部下ですが、その活用方法をしっかりと考えている人は少ないものです。日頃から、「3つの問いでこの会社の本質を知るには、どういう質問をすればよいか?」、「3つの問いで友達を助けるアイデアを練るには、どういう質問をすればよいか?」などと、問いの精度を高める練習をするのもいいでしょう。問いが下手だと、お金、時間、エネルギーの際限ない無駄を招きます。問いがうまいのは、答えを出すのがうまいのよりもずっと価値があります。連休はゆっくりと、「人生を成功させるには?」と自問自答するのもよいでしょう。