新しい事業
最近は釣りでバスや地下鉄に乗る機会も増え、時代から切り離されて暮らしている私も、広告を見ることが増えた。そんな中、嫌でも気付くのは、派遣会社や人材紹介企業、バイト紹介企業の広告がやたらと多いことだ。その広告からだと、仕事というものは実に気楽に選べ、まるで洋服を着替えるように手軽に選べるものらしい。条件、地域、時間帯、待遇…あんなものばかり見せつけられて育ったら、若者は仕事とはそういうものだとしか思わなくなるだろう。「未経験者歓迎」のキャッチも、別に全てが悪いというわけではないが、要するにそれまでの人生経験は一切無視するということである。「沖縄で働いて、オフはビーチでゆったり」どうしてオフの過ごし方まで提案されないといけないのか。「1ヶ月間ラクラク稼げて、今申し込むとクオカードをもれなくプレゼント!」こんな衝動買いのような選び方で、未来と向き合う人間も多いのだろう。問い合わせを増やすための撒き餌に目を奪われて、哀れな魚たちである。近頃は派遣会社ばかりが責められているが、自分の未来をゴミ箱同然と見なし、粗末な未来像を汚れた洗濯物のように放り投げてきた人が、未来において報われないのは派遣会社のせいではない。むしろ、未経験でも入ったその日から時給1,000円程度の単調労働ができる労働配給システムは、大したものだと思う。ただし、仕事を終えるたびに経験をリセットする仕事ばかり続けても、決して所得は増えない。低所得もまた、派遣会社とは関係ない。ましてや、資本家とは何の関係もない。考えてみれば、この国の職業設計は、ほとんど「無料情報」によって行われている。つまり、人材採用は企業側の広告事業の一環として始まる。だから、求職者は、仕事に関する知識や見識は、企業側が与えてくれるものと決め付け、学生にも「研修制度が充実した会社」をよしとする風潮がある。しかし、誰が研修で成長するだろうか。というより、会社の研修に成長の機会を求めるような若者が成長できるわけがない。研修が悪いわけではもちろんないが、成長とは素朴な生活の実感の積み重ねだ。自分で自分に研修課題を設定できないような若者は、いかなる研修制度のもとでも決して成長しない。仕事には勉強が必要だ。どんなことでも、本気で成長したければ、自分のカネを投じて体で学ぶことだ。無料情報ほど有害で、高くつくモノはない。そんなこともあって、私は春あたりから、隈本さんと新しい人事システムを提案する事業を考えてきた。求人経費の半額を求職者に負担させて、循環的でノウハウが蓄積される採用活動を、中小企業や零細企業、商業店舗に提案するのである。つまり、有料の求人媒体で、経営者的発想ができる幹部候補生やマネージャー的なバイトスタッフを育成し、良い人を得ないために「商売」で止まっている会社・店舗に、「経営」を持ち込むのである。「やめないようにしたい」「募集の五倍は問い合わせが来てほしい」なんと悲しい目標だろうか。意識が高い人が来るのは嬉しいだろうが、普通の若者の意識を引き上げることも十分可能だ。経営者の仕事は、もっと別のところにある。mai placeの事業を手伝いながら、同時進行で新たな事業のアイデアが生まれつつある。私はこうして、新たな事業を生み出すうえでの知的・精神的VCになるのが一つの夢だった。少子高齢化などと言う前に、人事システムを変えれば解決できる課題はいくらでもある。隈本さんが将来行うであろう事業は、mai placeとも親和性や相乗効果が高い。今日の夜釣りでは、また事業計画を語り合えたらと思っている。ちょっと雨が降っているが…。