カテゴリ:本の感想(さ行の作家)
島田荘司『寝台特急「はやぶさ」1/60秒の壁』
~講談社文庫、1988年~ 吉敷竹史シリーズの第一作です。タイトルなど、トラベル・ミステリこてこての感じで、どんなものかと不安だったのですが、思いの外―というか、面白かったです。 以下、簡単に内容紹介と感想を。 執筆に煮詰まっていた作家の安田は、1984年1月19日の早朝、ベランダに出て、双眼鏡で外を眺めていた。以前から目を付けていた、美しい女の住むアパートの一室を見てみると、彼女は風呂場にいるようだった。少し開いた窓から、女の裸がのぞめたため、最初は喜んだものの、一切女性が動く気配がない。翌朝、あらためてそこを眺めてみると、あいかわらず女はそのままの姿勢でいた。そして、彼は驚くべきことに気付く。女には、顔がないのだった。 * 吉敷竹史は、事件の担当をすることになった。被害者―九条千鶴子の遺体は、顔面の皮膚がはがされており、猟奇事件の相を呈していた。18日の午後3時頃、若い男と争っていることがアパートの住人に確認されており、死亡推定時刻もそのあたりと考えて矛盾がなかった。彼女と関係のあった男たちをあたっていくかたわら、彼女と争っていた男の行方を追いつつ、関心はなぜ顔面の皮膚をはがされたのか、ということに注がれた。 しかし、事件から約一ヶ月後、事件はさらに混沌とすることになる。18日16:45発の寝台特急「はやぶさ」で、彼女と話したという人物から連絡があったのである。千鶴子は、「はやぶさ」に乗っていたアマチュアカメラマンに、写真を撮ってもらってもいた。その写真が、雑誌に掲載されているというのだった。 …ちょっと思ったのは、その写真のシャッター速度が1/60秒だということなのですが、そこにそれほどこだわらなくても…ということでした。 そこがひっかかったものの、ミステリとして非常に魅力的な謎です。 15:30頃に死んだと思われる女性が、なぜ16:45分発の電車に乗っていたのか。なぜ、顔面の皮膚がはがされていたのか。これらの謎が解明していく過程もとても面白かったのですが、最近はキャラクタに着目しながら読む傾向にあり、そちらも面白かったです。 本書の解説を書いている綾辻さんの整理によれば、吉敷竹史さんは1948年1月18日生まれ。誕生日は本書にも書かれていましたが、生年がわかりませんでした。私が見逃したのかもしれませんし、他の作品に書かれているのかもしれません。とまれ、36歳の誕生日にこの事件が起こったわけですね。 彼は、生まれは広島県尾道なのですが、幼少のときは岡山県倉敷市で過ごしたそうです。倉敷市の美観地区の描写があり、身近に感じられて嬉しかったです。あ、島田さんは広島県のご出身なのですね。 シリーズ第一作ということもあり、上司との対立もありません。上司との対立は、『奇想、天を動かす』からということもなにかで読みました。とまれ、本書に登場する吉敷さんの先輩、中村さんも素敵な刑事さんです。 特にかっこよいと思ったのは、北海道の牛越刑事です。会話も動作もゆっくりなのですが、頭の回転が速い、というのがかっこよいですね。重要な指摘もなさいます。牛越さんは、『死者の飲む水』の探偵役だとか。これは読むのが楽しみになってきました。さらに、『斜め屋敷の犯罪』など、御手洗潔シリーズにも登場していますね。また、中村刑事は『火刑都市』の探偵役だそうです(解説参照)。こちらも楽しみです。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
[本の感想(さ行の作家)] カテゴリの最新記事
|
|