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2007.05.15
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島田荘司『奇想、天を動かす』
~光文社文庫、1993年~

吉敷竹史シリーズの長編にして、島田さんのミステリへの情熱が余すことなく発揮されているといった評価も非常に高い作品です。実際、この作品はすごいと思います。以下、内容紹介と感想を。ただし、内容紹介は、読み進むにつれて明らかになることも書きますので、未読の方はご注意ください(ネタバレになるわけではないと思いますが…)。

 平成元年(1989年)4月。浅草の乾物屋に、ハーモニカおじさんとして有名な、薄汚れた浮浪者が入る。400円の買い物をし、400円だけを置いて去ろうとする彼を、店主の桜井佳子は消費税の12円を払っていないと、執拗に呼び止めた。そのとき、事件が起こった。浮浪者が、桜井をナイフで刺したのだった。
   *
 取り調べ室でも薄笑いを浮かべ続け、言葉を発しない浮浪者。吉敷の相棒の小谷も、主任も、ボケ老人が消費税を払いたくないために起こした殺人事件だと考えるようだが、吉敷は納得できなかった。この老人は、決してボケ老人ではない、高い知性があるのではないか―。
   *
 桜井と老人の前身を調査している吉敷に、方々から連絡が入る。老人は、宮城県刑務所に長年入所していた、行川という男だということが分かると、吉敷は宮城県に趣く。行川をよく知る人物と話をして、彼が小説を書いていたことが分かった。それは、電車の中で踊っていたピエロが、密室状態のトイレの中で自殺し、確認した人々が30秒ほどドアを閉めていた間に、その死体が忽然と消えてしまったという物語や、白い巨人の手で、別の路線の電車に「私」が運ばれたという話など、ミステリーとも幻想小説ともつかない物語だった。
   *
 行川の小説が雑誌に取り上げられてから、北海道の牛越刑事から吉敷に連絡が入る。小説に描かれている通りの、あるいはそれ以上の事件が、昭和32年(1957年)にあったという。
 飛び込み自殺、踊るピエロ。ピエロはトイレの中で拳銃により自殺。トイレの中は、蝋燭が並べられており、便器に死体が横たわっていた。現場保全のために車掌がドアを閉めたものの、蝋燭の火を消さないと危ないということで、あらためてドアを開けたとき、そこに死体はなかった。電車に乗せられていた、飛び込み自殺者の死体が立ち上がり動き回った後には、電車は高く舞い上がり、脱線していた。そして、投げ出された機関士は、白い巨人が立っているのを目にした……。
   *
 30年前の謎の大事件を説き明かす中で、吉敷は、単なる消費税殺人と思われた桜井殺しの事件の、悲しくも壮大な背景を知る。


 内容紹介に書いたミステリとしての魅力的な謎に加え、本書はメッセージ性にも富んでいます。戦時中の強制連行、映画を観に行くだけで罰せられるような日本の社会という問題も興味深かったのですが、もう一つ印象的なエピソードは、冤罪です。
 本書に登場する便山刑事は、いくつもの冤罪を造り出したという人物なのですが、犯罪者はおしなべてゴミ、奴らの言い分を聞く必要はないという態度には、恐怖すら覚えました。これは、吉敷さんの上司である主任にも通じることですが…。そして、彼らのような人間も現実にいるらしいということですが、ごく少ないことを祈るばかりです。
 吉敷さんが主任にぶつける言葉に感動しました。
 良い読書体験でした。





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Last updated  2007.05.15 07:44:57
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