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2008.07.21
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ジャン・クロード・シュミット(渡邊昌美訳)『中世歴史人類学試論―身体・祭儀・夢幻・時間―』
(Jean-Claude Schmitt, Le Corps, les Rites, les Reves, le Temps. Essais d'anthropologie medievale, Paris, Editions Gallimard, 2001)
~刀水書房、2008年~

 ジャン=クロード・シュミットの邦訳書としては、三冊目になります。本書以前には、次の2冊があります。

(松村剛訳)『中世の身ぶり』みすず書房、1996年
(松村剛訳)『中世の迷信』白水社、1998年

 また、訳者の渡邊昌美先生はカタリ派研究の大御所です(『異端カタリ派の研究』は、私は未読なのですが…)。私が所有し、読んでいる渡邊先生の本は、次の3冊です(邦訳書含む)。

フェルナン・ニール(渡邊昌美訳)『異端カタリ派』白水社文庫クセジュ、1979年
渡邊昌美『中世の奇蹟と幻想』岩波新書、1989年→読みやすい、面白い、オススメの一冊です。
エマニュエル・ル・ロワ・ラデュリ(井上幸治/渡邊昌美/波木居純一訳)『モンタイユー ピレネーの村1294-1324』(上・下)刀水書房、1990-1991年→こちらも面白いです。

 さて、本書の構成は以下の通りです。

ーーー
 まえがき
第一部 信仰と祭儀
 第一章 中世宗教史は成立可能か
 第二章 聖の観念と中世キリスト教への適用
 第三章 西欧中世における神話の問題
 第四章 中世の信仰
 第五章 信経の良き効用
第二部 民俗伝統と知的文化
 第六章 中世文化における民俗伝統
 第七章 「若衆」と木馬の舞踏
 第八章 取り込まれた言葉(採用と変形)
 第九章 仮面、悪魔、死者
第三部 主体とその夢
 第十章 「個人の発見」は歴史のフィクションか?
 第十一章 ギベール・ド・ノジャンの夢
 第十二章 夢の主体
第四部 身体と時間
 第十三章 病む体、憑かれた体
 第十四章 キリスト教における身体
 第十五章 十二世紀における時間、民俗、政治
 第十六章 待望から彷徨へ
 第十七章 未来の観念

訳者あとがき
原注
人名索引
ーーー

 最初に、訳書としてちょっと残念だったところを指摘した後に、内容についてのコメントを。
・表記の不統一…レヴィ・ストラウス、レヴィ・ストロース
・表記ミス?…ジャン・デリュモー(106頁)→ジャン・ドリュモーが一般的
・注について(1)…2章注16に、「本書第3章…pp.54-77を参照」とありますが、訳書では第3章は40-58頁です。見れば分かるから良いのですが、せっかくなのだから訳書の該当ページも書いてあった方が良いと思いました。
・注について(2)…研究者名が、カタカナ表記してあったり、原綴のままだったり(書誌情報とは別の部分で)、統一してあればより良いように思います。それにしても外国人研究者名をカタカナ表記するのは難しいですね…。
・注について(3)…邦訳のある文献もけっこう引かれているので、邦訳書の該当ページまでとはいいませんが、邦訳書のタイトルも示してもらっていればなぁ、と思いました。こちらはないものねだりですが…。
 なお、ジャック・ル・ゴフ(加納修訳)『もうひとつの中世のために』は、注に引かれた文献の邦訳書の情報もしっかり書いてくれていて、とても親切な一冊です。

 では、内容の方の紹介を(まとまりはない文章になりますが…)
 第一章だけは原書で読んでいたのですが、よく分かっていませんでした。「迷信」「宗教」など、中世と現在で概念が違っている言葉はかっこをつけて表記しよう、という部分は印象に残っていたのですが…邦訳でも、やっぱりよく分かりませんでした。本書の中には抽象的・観念的な話が多く、なかなか難しかったです。

 そんな中、第四章、第六~九章(=第二部)、第十三章あたりは話も具体的で、興味深く読みました。
 第四章では、私が数年研究したジャック・ド・ヴィトリの説教史料も多く引用されていて、興味深かったです。
 これは本書とは話がずれますが、ジャックの『俗人向け説教集』は、聴衆の社会的身分に応じた説教集なのですが、全体の校訂版が出版されていないので、読める部分は限られているのが現状です。Jean Longereがその全体の校訂版を準備しているとのことですが(1)、果たして出版はいつになるのでしょう…。

 第七章は、若者の「木馬の舞踏」を扱った例話を手掛かりに、その民俗的性格と、聖職者がそれをどのように例話として使ったのかを分析しています。

 第八章も同じく、悪魔としての猫が登場する例話を手掛かりに、猫の性格や、その例話と関連する一連の話の中で、内容がどのように変わってきているかと分析します。なお、ラテン語で猫はmurilegus[ハツカネズミを狩るもの](2)と言われていましたが、13世紀頃から catusと言われるようになります。ジャック・ド・ヴィトリの例話を読んでいると、その両方が書かれていることがあり、はてなと思っていたのですが、本書で、12-13世紀からcatusがmurilegusにとってかわることになり、ジャックの史料はその過渡期を示すとの指摘があり、なるほど!と勉強になりました。

   *

 本書ではしばしばカロライン・W・バイナムCarolyne Walker Bynumの研究が引用されていて、バイナムの研究も読んでおいた方が良いかとあらためて思いました。あらためて調べていると、かなり著作の多い研究者で、しかもどの著作も面白そうです。邦訳が出ないものでしょうか…。

   *

 近年(といっても、もう20年ほど前から)ジャン=クロード・シュミットは図像学的な研究にも取り組んでいますが、本書でもそのアプローチが試みられるところがあり、図像も割合載っていて、興味深いです。
 なお、図像に関する著作(Le corps des images. Essais sur la culture visuelle au Moyen Age, Paris, 2002)が、本書と同じ刀水書房から邦訳される予定があるそうです(3)。

 内容についてのコメントがほとんどないですが、このあたりで。

ーーー
(1)Carolyn Muessig, "Audience and Preacher : Ad Status Sermon and Social Classification", in idem, Preacher, Sermon, and Audience in the Middle Ages, Brill, 2002, pp. 255-276 (p. 255, n. 4)
(2)cf. ロベール・ドロール(桃木暁子訳)『動物の歴史』みすず書房、1998年、378頁。
(3)小池寿子「歴史図像学」高山博/池上俊一編『西洋中世学入門』東京大学出版会、2005年、155-179頁(178頁)。なお、この本は、そのタイトル通り、西洋中世史の研究を志す方々の必読書となるでしょう。はじめて書店に並んでいるのを見たときは衝撃が走りました(即座に買いました)。

(2008/07/20読了)





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Last updated  2008.07.21 08:24:13
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