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2009.07.07
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マルク・ブロック(河野健二ほか訳)『フランス農村史の基本性格』
(Marc Bloch, Les caracteres originaux de l'histoire rurale francaise, Oslo H. Ashehoug & co., 1931)
~創文社、1959年~

 アナール学派の創始者のひとり、マルク・ブロック(1886-1944)による、フランス農村史研究です。タイトルだけ見れば、制度的な話が多そうですが、そんな心配は杞憂に終わりました。なんというか、常に現実に生きた人間が意識されているのです。
 さて、詳しい感想は後にまわして、まずは本書の構成を掲げておきます。

ーーー
凡例

序 方法についてのいくつかの観察
 文献案内
第一章 土地占有の大きな段階
 1 起源
 2 大開墾の時代
 3 中世の大開墾から農業革命へ
第二章 農業生活
 1 旧農業の一般的な特徴
 2 輪作のタイプ
 3 農業制度。開放・長形耕地
 4 農業制度。開放・不規則耕地
 5 農業制度。囲い込み地
第三章 一四・一五世紀の危機までの領主制
 1 中世盛期の領主制とその起源
 2 大土地占有者から地代取得者へ
第四章 中世末からフランス革命までの領主制と土地占有の変質
 1 領主制の法的変質。農奴制の運命
 2 領主財産の危機
 3 「領主的反動」。大土地所有と小土地所有
第五章 社会集団
 1 マーンスと家族共同体
 2 農村共同体。共有地
 3 諸階級
第六章 農業革命の発端
 1 共同利用にたいする最初の攻撃。プロヴァンスとノルマンジー
 2 採草地における共同体的諸権利の衰退
 3 技術革命
 4 農業個人主義への努力。共有地と囲い込み
第七章 展望。過去と現在

訳者あとがき
索引
図版
ーーー

 本書の訳者あとがきも含め、しばしば指摘される本書の特徴は、比較の視点と、遡行的方法のふたつです。
 まず比較の視点ですが、本書は標題に「フランス農村史」と掲げながらも、要所要所で他国の状況にもふれています。また、フランス国内の中でも、地方によって違いがありますので、それらを比較しながら話が進められます。そして、この比較対照という方法により、「共通の性格と同時に、独自性を取り出す」ことが目的とされます。
 遡行的方法は、過去を理解するために、現在を理解するところからはじめ、過去にさかのぼって研究していくということです。おおまかにいって、本書自体は中世から現代へという通史的記述と、第二章などのように一つのテーマについて検討する記述の二種類の記述があるといえますが(*1)、いずれでも、現代(マルク・ブロックが生きた時代)の農村の状況が念頭におかれているといえます。

 また、本書の目的は、問題の解決を提示することではなく、「問題をうまく提起すること」(3-4頁)だとブロックはいいます。なので、訳者あとがきにもあるように、本書の内容を鵜呑みにしてしまうことは戒められているといえます。

 そうは言っても、本書はとても魅力に満ちた一冊でした。
 私自身は不勉強ながら、農村史についての研究史を把握していませんが、本書の内容にはもはや古びたところもあるのでしょう。それでも、地域や道具の状況などに応じた耕地の3タイプを論じる第二章の3節~5節をはじめ、森林とひとびとの関係をあつかう第一章2節の一部など、興味深い記述が多々あります。
 たとえば森林についての記述(23-27頁)は、森林がひとびとにもたらす資源や、猟師、鍛冶屋などの「森の住民」、森が家畜の放牧地として役だったことなどにふれられていて、とても生き生きした記述となっています。
 もうひとつ、道具と耕地のかたちについてもメモしておきます。
 有輪犂が用いられる地方には一方向にとても長い耕地(開放・長形耕地)が、無輪犂が用いられる地方には不規則耕地が対応するという指摘があります。長形耕地については話を聞いたことがあり(図も見たことがあるかもしれないですが)、知識としては知っていましたが、本書に付された図版で、その具体的な様子が分かります。とまれ、有輪犂は、無輪犂に比べて、同じ頭数の家畜に引かせてもずっと深く地面を掘ることのできる道具でした。ところが、車輪があると、方向転換のためのスペースが必要となってきます。そこで、一気に長い距離を耕し、方向転換して、また長い距離を耕す、というように、長形耕地が便利だったわけですね。…もっとも、ブロック自身は、このように単純化して理解してしまうことに注意も呼びかけています。

 記事の冒頭で、本書の記述が生きた人間を意識している、と書きました。先に少しふれた森林についての記述の部分もそうですし、たとえばある法が適用されることになった際、いろんな階層(立場、境遇)の人々が、いかにその法に対応したか、というところにも目配りがあります。

   *

 訳者あとがきによれば、本書は5人の訳者がそれぞれ分担箇所をもちより、毎週1回研究・検討会を行って訳出が進められたそうです。本書の出版を依頼された際、訳者代表の河野さんは、そのように検討会をもってゆっくり時間をかけて訳出することを条件に引き受けられたとか。このように丁寧につくられた邦訳書は、とても素敵だと思います。

   *

 ノートもとらずに、流し読みのところもあるので、十分には理解しきれていませんが、とても興味深い一冊でした。

 なお本書の概要や意義については、
二宮宏之『マルク・ブロックを読む』岩波書店、2005年
 の、116-144頁が参考になります。

(2009/07/04読了)





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Last updated  2009.07.07 06:39:32
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