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2009.07.11
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マルク・ブロック(高橋清徳訳)『比較史の方法』
(Marc Bloch, "Pour une histoire comparee des societes Europeennes", Revue de Synthese Historique, Dec.1928, pp. 15-50)
~創文社、1978年~

 本書は、『歴史総合雑誌』に掲載されたマルク・ブロックの論考(原題は「ヨーロッパ諸社会の比較史のために」)の邦訳に、訳者による詳細な解説が加えられた一冊です。論文の訳自体は原注含めて70頁弱、解説が60頁と、全体で130頁ほどの小著ですが、ブロック自身の論考はもちろん、近代以降のフランス史学史やブロックによる「比較史の方法」について整理した解説も、とても読み応えがありました。
 本書には、論文にも解説にも、章番号(あるいは節番号)が付されているだけで、小見出しはないのですが、ここでは私なりに小見出しをつけて、本書の目次のページにもない、やや詳細な構成を示しておきます。

ーーー
凡例

「比較史の方法」
 一 本稿の目的
 二 比較の定義と、比較の二つの適用の仕方
 三 比較による現象の発見
 四 解釈の問題(1)―影響関係による類似性
 五 解釈の問題(2)―模倣によらない類似性
 六 比較による相違点の認識
 七 地誌的仕切りの無意味性
 八 研究の進め方
 原注

「解説」(高橋清徳)
 一 方法論的観点からみたフランス史学史におけるブロックの位置づけ
  (1)復古王制の時代=フランス史学史上、最初の実り多い時期
  (2)1848年二月革命の衝撃
  (3)「アナール派」の誕生
  (4)伝統史学からの「アナール派」批判
  (5)第一世代以後のアナール派
 二 比較の方法、特にその論理的性格について
  (1)ブロックの比較の方法への影響1―アンリ・ピレンヌ
  (2)ブロックの比較の方法への影響2―デュルケムとメイエ
  (3)マルク・ブロックの比較の方法
 注

訳者あとがき
索引
ーーー

 まずはブロックの論考にもとづいて、簡単に比較の方法について整理しておきます。
 彼によれば、比較は、一つあるいはそれ以上の相異なる社会状況から、一見してよく似ている現象を選び、それぞれの発展の道筋を追うことによって、それらの現象の類似点と相違点を確定し、さらにはその類似や相違が生じた理由を説明すること、となります。
 ところで、比較の方法はといえば、二つあります。
 一つは、時代的にも地理的にも離れた社会の現象を比較すること。本稿で挙げられるのは、ギリシア・ローマ社会と、現代のいわゆる「原始」社会との対比です。
 もう一つは、時代的にも地理的にも近い社会の現象を比較することです。これは、現象の相互影響関係を探ったり、共通の起源にさかのぼりえるということで、「厳密な意味での歴史の領域」だといいます。
 さて、比較によって、いくつかの現象の類似点や相違点について分析していくわけですが、その前に、そもそもその問題の対象とする現象を発見する際にも、比較の方法は有効です。歴史は史料をもとに研究するわけですが、史料はこちらから問いかけてこそ語ってくれます。なので、まずは問題を設定することが重要なのですが(これは森博嗣さんも強調されていますね)、その際、比較の視点が有効だよ、というのです。
 さて、問題を設定し、現象を見つけた後は、その類似点と相違点の確定、解釈の作業に移っていきます。ここでは、比較的近い前後の時代にあった現象について、それらが影響関係にあるがゆえの類似点と、こうした影響関係では説明できない類似点の、ふたつの類似性が区別されることを指摘しておきます。
 最後は、研究の進め方ですが、ここからはブロックの熱い人柄がうかがえます。まず、自分の関心のあるテーマについての既発表文献は全て読む。それに近い領域についての文献もほぼ全て読む。そして、これは従来不十分だったといいますが、自分が研究する社会とは関係の薄い異なる諸社会についての文献も読むべきだ、というのです。たしかに、たとえば日本の政治のことだけ見るよりも、外国での政治の在り方も学んだ方が、両者の問題点や利点、さらにそれが生まれてきた状況というのが、相対的に見えてきますよね。
 このように、興味深い論考でした。

 上でも書きましたが、本書については詳細な解説も重要です。
 順番は前後しますが、「二」では、ブロックの論考では十分に検討されていない点を明らかにし、さらに補足説明を加えています。ベルギーの歴史家ピレンヌや社会学者デュルケム、言語学者メイエがいかにブロックの論考に影響を与えているかを示すなど、「比較の方法」という論考をさらに深く読むための丁寧なガイダンスになっています。
 個人的には、「一」でのフランス史学史の整理を、より興味深く読みました。
 徹底的に史料から読み取れる事実を重視することで、「事件史」(=政治史、外交史)に偏っていった「伝統的実証主義的歴史学」ですが、その背景には、政治的立場に左右される、イデオロギー色の強い歴史(学)がありました。
 ところで、歴史を研究する上で、三つの言葉が問題となってきます。「観点」「理論」「事実」が、それです。政治的立場からの歴史学では、その「観点」は実際の政治要求そのものとなります。そうすると、「理論」は、「事実」よりも「観点」との整合性が要求されます。これに対して実証主義歴史学は、「観点」「理論」をひとまず問題とせず、「事実」を重視することになります。そこでは、「理論」は、事実を自らして語らせる「実証」の結果として出てくることになります。
 実証主義の研究を「退屈」「生気がない」と批判したアナール派の研究やその史学史的展開を中心に勉強してきていたので、実証主義の生まれた背景について(そして「観点」「理論」「事実」という視点)が、とても興味深かったです。
 アナール派に対する実証主義歴史学からの批判として、現代と過去との関係や人間の生活に重きをおく「アナール派」は、まさに「観点」を重要とするが、ある「観点」からの歴史研究の客観性は保証されるのか、というものがあります。解説によれば、アナール派はこの問題に対する解答をそもそも持っていませんでした。しかし(解説を読むかぎり)、完全に客観的に、実証的に事実を研究するといっても、一切の「観点」を排除することは不可能で、現に特定の「観点」にしばられた実証主義の歴史家たちも挙げられています。「観点」と、歴史叙述の客観性の問題の深さがうかがえました。

 小著ながら、とても興味深い一冊でした。

(2009/07/08読了)





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Last updated  2009.07.11 13:43:16
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