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2012.04.22
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土屋賢二『あたらしい哲学入門―なぜ人間は八本足か?―』
~文藝春秋、2011年~


 岡山県出身でお茶の水大学名誉教授の土屋賢二先生による、講義をもとにした哲学入門書です。

 土屋先生は、ユーモアエッセイも多数発表されていますが、哲学関連の文献としても次の3冊が刊行されています。
・土屋賢二『猫とロボットとモーツァルト』勁草書房、1998年
・土屋賢二『ツチヤ教授の哲学講義』岩波書店、2005年
・土屋賢二『もしもソクラテスに口説かれたら―愛について・自己について』岩波書店、2007年

(本書の後に、『幸・不幸の分かれ道―考え違いとユーモア―』東京書籍、2011年も刊行されています。一度読んだのですが、記事はまだ書けていません)

 本書の構成は次のとおりです。

ーーー
まえがき
1時限目 講義の方針
2時限目 問題が無意味になるとき
3時限目 ことばが無意味になるとき
4時限目 強力な武器:基準
5時限目 基準の使い方I
6時限目 基準の使い方II
7時限目 間違っているけど便利な論法―「生きる意味はない」
8時限目 二つの意味を混同して出てくる問題I
9時限目 二つの意味を混同して出てくる問題II
10時限目 だれでも答えられるはずなのに答えられない問題
結論
ーーー

 土屋先生が他の文献でも強調されている、哲学の問題は言葉の誤解から生じる、ということを、分かりやすく論じた1冊です。いろんな誤解のあり方や、その誤解から生じる問題を紹介し、そこから誤解を解くことで、問題自体を無意味にしていく、という流れですね。
 サブタイトルは、問題自体が意味をなさない例を示しています。

 まず1時限目で、この講義の目標が語られますが、その中で、「なんとなく分かった」ではなく、「フランスの首都がパリである」と答えられるくらい明確に理解してほしい、という言葉があります。まず、このくだりに感動しました。なんというか、これくらいのスタンスで、分かりやすい講義をしようという(そして理解してもらおうという)教員がどれくらいいるかな、という思いもありつつ、こういう先生に出会えたら幸せだろうなぁ、と思います。

 さて、では、2つの印象的な例を書き留めておきます。

 たとえば、ゼノンという哲学者のパラドックスに、飛ぶ矢は飛ばない、というものがあります。A点からB点に向かって飛んでいる矢があっても、ある一瞬をとってみれば、A点からB点の間でその矢は静止しています。次の一瞬をとっても、やはり矢は静止している。このように、矢はどの瞬間をとっても止まっているのだから、矢が飛んでいるとはいえないのではないか、というのですね。この問題も、言葉の定義を明確にすることで、解決することができます。

 本書の中で特に面白かったのは、「人生に生きる意味はない」という問題です。私もむかし、この問題に悩んだことがありますが、土屋先生はこの問題を無意味なものにしてくれます。ちょっと結論を先取りしてしまえば、これは哲学的な問題ではなく、単に個人の価値観の表明にすぎない、というのですね。
 人生に意味がない、というとき、たとえば、人生はいずれ終わるとか、毎日同じことの繰り返しという根拠が挙げられます。しかし、人生に意味がある、というとき、たとえば、人生はいずれ終わるからこそ生きているその瞬間が楽しいとか、同じことの繰り返しの中にも、いろんな発見がある、という根拠をあげることができます。同じものを見ても、出てくる答えが違うということは、つまり、価値観の違いでしかなく、客観的な基準というものが存在しない、というのですね。
 これはたとえば、風邪のときにある薬Aを飲むのは意味がある、というときの「意味がある」とは違います。薬Aが風邪に対して意味がある(=対処として重要)ということは、客観的に確認することが可能だからです。つまり、「人生に意味はない(=人生は重要ではない)」という問題は、「意味がある・ない」という言葉の使い方の誤解から生じる、ということになります。

 これらの例の他にも、興味深い話題の多い、面白い一冊です。

※先日、土屋先生の講演会に参加して(講演もとても面白かったです)、本書にサインしてもらいました。いっそう、大切な一冊になりました。





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Last updated  2012.04.22 09:51:19
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