カテゴリ:本の感想(さ行の作家)
島田荘司『進々堂世界一周 追憶のカシュガル』 ~新潮社、2011年~ 御手洗潔シリーズの短編集です。ただ、ミステリとはいいがたいので、シリーズ番外編とでもいえるでしょうか。世界各国を放浪していた御手洗さんの、考えさせられる思い出話です。 それでは、簡単にそれぞれの内容紹介と感想を。 ーーー 「進々堂ブレンド1974」ぼくことサトルと御手洗さんが話すようになったこと、そしてぼくの過去の苦い思い出が語られます。 「シェフィールドの奇跡」視力障害と知的障害を抱える少年が、いじめられていたが、父親のすすめで重量挙げをはじめ、めきめきと上達する。しかし大きな大会に出られるようになったところで、それまでみてくれていたジムも急に冷たくなった。さらに上を目指すには必ずついてほしいコーチも、父親の依頼を拒絶する。そんななか、コーチを不幸が襲い…。 「戻り橋と彼岸花」第二次世界大戦中、韓国から日本にやってきた二人の姉弟。留学のつもりが、二人はアメリカへ飛ばす風船爆弾の作成の作業を命じられる。姉は日本人監督にひどいことをされ。怪我をして、親類のいる村で休養をとっていた弟は、村から持って帰っていた彼岸花の球根で、復讐をすることを誓う。しかし球根はいつの間にか消え、復讐もできなかったが…。戦後、アメリカにわたった彼は奇跡に出会う。 「追憶のカシュガル」カシュガルで出会った不思議な老人の思い出。イスラーム圏では尊敬を集めてしかるように思われたその老人は、ふだんは優しい町の人々から完全に冷たくあしらわれていた。御手洗は、老人にカシュガルを案内してもらう。そのなかで、老人がかつて出会った日本人の話を聞く。戦時中、多くの国の利害関係が衝突していたカシュガルの悲劇がそこにあった。 ーーー 第一話は、本書の語り手(というより、御手洗さんの話の聞き手というべきでしょうか)の紹介のような性格で、エピソードもちょっと異質です。 御手洗さんの思い出話に共通すると私が考えるのは、許すことのエネルギーです(以前紹介した、小路幸也さんの『Q.O.L.』でも同じことを感じましたが)。 いじめられ続け、しかし見返すように重量挙げの成績もどんどん伸びたのに、結局はコーチから拒絶された知的障害を負う少年。そして、戦争がまねいた多くの悲劇。あまりにもつらいですが、本書は絶望では終わりません。ですがその裏には、主人公たちのものすごいエネルギーがあります。 ミステリではありませんが、御手洗さんの優しさが感じられる、そしていろいろと考えさせられる、素敵な物語でした。 ※2011年に一度読んでいたのですが、ばたばたしていて感想が書けなかったので、この度再読しました。良かったです。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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