カテゴリ:教養・学術書(西洋史以外)
~講談社学術文庫、2019年~
著者の松村先生は和光大学教授で、専攻は神話学。私の手元には、先生の業績として、本書にも取り上げられている次の訳書があります。 ・ジョルジュ・デュメジル(松村一男訳)『神々の構造―印欧語族三区分イデオロギー―』国文社、1987年 さて、本書は、19世紀から20世紀までの代表的な神話学研究者の経歴と業績を分析し、それぞれの特徴を明らかにしながら、神話学の学説史を整理した一冊です。もともと1999年に角川書店から『神話学講義』のタイトルで刊行されており、本書は講談社学術文庫化にあたり改題、一部加筆、そして文庫版あとがきなどが追加されたものです。 本書の構成は次のとおりです。
――― 原本まえがき
第一章 神話学説史の試み 第二章 十九世紀型神話学と比較言語学 第三章 マックス・ミュラーと比較神話学の誕生 第四章 フレイザーと『金枝篇』 第五章 デュメジルと「新比較神話学」 第六章 レヴィ=ストロースと「神話の構造」 第七章 レヴィ=ストロースと「神話論理」 第八章 エリアーデと「歴史の恐怖」 第九章 キャンベルと「神話の力」
おわりに 原本あとがき 文献案内 学術文庫版あとがき―二十年の後に ―――
各章のメモは省略しますが、本書の大要をまとめると次のようになります。(第一章の整理を中心に、適宜該当章も参照し作成。) ○19世紀型神話学のパラダイム:進化論・歴史主義 ・ミュラー:「自然神話」的解釈。神々の名前に着目、不可思議な神話を自然の寓意として解釈。 ・フレイザー:進化論の立場。神話は地上の文化現象に起源。『金枝篇』では「ネミの森」の奇習の分析のため、「死んで甦る神」の神話に着目。(再生=植物のイメージ) ○過渡期としてのデュメジル:社会学の影響、インド=ヨーロッパ語族の3区分イデオロギー論。 ○20世紀型神話学のパラダイム:構造主義、反歴史主義、「無意識」の存在の認識 ・レヴィ=ストロース:構造言語学の影響。神話の構造の比較分析。 ・エリアーデ:起源神話を強調。古代社会と近現代社会の対比、神話を理想とする。 ・キャンベル:英雄神話を強調。ユング心理学の影響。科学的というより宗教的面も。
この記事の冒頭にも書きましたが、本書では、各研究者の学説の背景として、彼らの経歴にもていねいに目を配り、学説が形成される過程がたどられます。 中には、キャンベルの論調の説明を「アメリカ的」との観点から行っていますが、この説明ではアメリカの同時代の神話学者がみな同じ論調だったのか、という疑問を抱いてしまう面もありました。議論の進め方としては面白いし分かりやすいのですが、より個別性を掘り下げる必要性もあったのでは、と感じました。(きわめて難しい作業と思いますが。) 一方、エリアーデの学説の説明で、彼が不安定な情勢のルーマニア出身であったことが強調されるのは、説得力もあり、研究者の経歴分析が必要とする立場の重要性はうかがえると思います。
また本書では、適宜議論の流れを(時に箇条書き風に)整理してくれており、読み進めるのに非常に助かります。文献目録では取り上げられる研究者の主著(本文中で言及される著作)と、関連する文献が紹介されているなど、とてもていねいな作りだと感じます。
とても興味深く読んだ一冊です。良い読書体験でした。
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