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2021.07.03
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島田荘司『『改訂完全版 奇想、天を動かす』
(島田荘司『島田荘司全集VIII』南雲堂、2021年、321-604頁)


 吉敷竹史シリーズの長編にして、代表作の1つです。今回再読して、あらためてその面白さを痛感しました。

 それでは、簡単に内容紹介(2007年のブログ記事をほぼ再録)と感想を。

―――
 平成元年(1989年)4月。浅草の乾物屋に、ハーモニカおじさんとして有名な、薄汚れた浮浪者が入る。400円の買い物をし、400円だけを置いて去ろうとする彼を、店主の桜井佳子は消費税の12円を払っていないと、執拗に呼び止めた。そのとき、事件が起こった。浮浪者が、桜井をナイフで刺したのだった。

   *

 取り調べ室でも薄笑いを浮かべ続け、言葉を発しない浮浪者。吉敷の相棒の小谷も、主任も、ボケ老人が消費税を払いたくないために起こした殺人事件だと考えるようだが、吉敷は納得できなかった。この老人は、決してボケ老人ではない、高い知性があるのではないか―。

   *

 桜井と老人の前身を調査している吉敷に、方々から連絡が入る。老人は、宮城県刑務所に長年入所していた、行川という男だということが分かると、吉敷は宮城県に趣く。行川をよく知る人物と話をして、彼が小説を書いていたことが分かった。それは、電車の中で踊っていたピエロが、密室状態のトイレの中で自殺し、確認した人々が30秒ほどドアを閉めていた間に、その死体が忽然と消えてしまったという物語や、白い巨人の手で、別の路線の電車に「私」が運ばれたという話など、ミステリーとも幻想小説ともつかない物語だった。

   *

 行川の小説が雑誌に取り上げられてから、北海道の牛越刑事から吉敷に連絡が入る。小説に描かれている通りの、あるいはそれ以上の事件が、昭和32年(1957年)にあったという。

 飛び込み自殺、踊るピエロ。ピエロはトイレの中で拳銃により自殺。トイレの中は、蝋燭が並べられており、便器に死体が横たわっていた。現場保全のために車掌がドアを閉めたものの、蝋燭の火を消さないと危ないということで、あらためてドアを開けたとき、そこに死体はなかった。電車に乗せられていた、飛び込み自殺者の死体が立ち上がり動き回った後には、電車は高く舞い上がり、脱線していた。そして、投げ出された機関士は、白い巨人が立っているのを目にした……。

―――

 単純な消費税をめぐる殺人事件という図式に違和感を覚える吉敷刑事が丹念に調査しあぶりだしたのは、30年前のあまりにも奇妙な未解決事件、そして数奇な運命に翻弄された一人の老人でした。
 犯罪者を逮捕する=社会を安心させるという狂信的な信念から、冤罪を生み出してしまったある刑事が登場します。また、吉敷さんの上司にあたる主任も、吉敷さんの調査を批判します。犯人が挙がっているのに、何をまだ知らべることがあるのか、と。最後に吉敷さんが主任に本音を伝えるシーンは印象的で、記憶に残っていました。
 また、奇妙な事件(消えたピエロ、多くのろうそく、白い巨人、虫のような音などなど)についてもスマートな解答が示され、本格ミステリ論を唱道していた著者が自身の著作でその実践を見事に示した優れた好例の1つと思います。
 単に謎解きに終わるだけでなく、あまりに多くの波乱に巻き込まれた一人の老人の生涯を通じて、我が国の在り方(残念ながら現在にも通じる部分が多々ある)についても考えさせられる作品です。
 記事の冒頭にも書きました、あらためて面白さと痛感し、また感動できる読書体験でした。やはり名作の1つです。

(2021.02.08読了)

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Last updated  2021.07.03 23:13:10
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