三上延『ビブリア古書堂の事件手帖III~扉子と虚ろな夢~』
~メディアワークス文庫、2022年~
扉子さん編第3弾の長編です。幕間をはさみながら、大きく3つの本をめぐる物語からなります。
古本屋を継ぐ予定だった男性が亡くなり、元妻は自分の子に相続権があるため、男性の本をすべて子に相続させたい、とビブリア古書堂を訪れます。というのも、亡くなった康明さんの父、正臣さんが、康明さんの蔵書をすべて引き取り、デパートで開催される古本市で売り払おうとしているので、蔵書が売られてしまうのを防ぎたい、というのです。
一方、依頼主の子―正臣さんの孫の恭一郎さんは、正臣さんにお願いされ、古本市の手伝いのアルバイトをします。そこで扉子さんに出会い、本についての話を聞いたり、古本市で起こった奇妙な出来事の解決に立ち会ったりします。
映画パンフレットの袋に書かれたアルファベットが意味するものは。
樋口一葉の数ある本の中から、1冊だけいつの間にか売れてしまった理由は。
夢野久作『ドグラ・マグラ』をめぐる物語とは。
そして、そこまで乱暴な人ではなかったはずの正臣さんは、なぜ亡くなった康明さんの蔵書を相続させず、売り払おうとしているのか…。
これは面白かったです。
後味が良くはありませんが、それでも扉子さんと恭一郎さんのほほえましい交流や、同じく栞子さんと大輔さんの微笑ましいやりとり、古本市で一緒に働く古本屋の人々の人柄など、あたたかい要素も盛りだくさんでした。
(2022.07.31)
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