京極夏彦『狂骨の夢』
~講談社ノベルス、1995年~
百鬼夜行シリーズ第3弾。
それでは、簡単に内容紹介と感想を(2007年11月6日の記事からほぼ再録。メモの意味もあり、やや詳細な紹介です)。
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逗子を訪れた釣り堀屋の伊佐間は、海で朱美という女性と出会う。伊佐間は、体調を崩し、熱も出てしまったようで、女の言葉にあまえ、彼女の家で休ませてもらう。その際、朱美は、自分は人を殺したことがあるという。8年前、夫は、兵役にとられる前に、逃げた。ある日、病気の父親に薬を飲ませに帰っていたが、どうも、朱美が働いていた酒屋の娘とともに逃げているらしい。そして、後日、夫は死体で発見されたが、その首は切断されていた。
酒屋の主人に見舞金をもらい、村を発った朱美は、夫と逃げていたらしい女―民江と出会った。民江が持っていた髑髏は、夫の首なのではないか―。髑髏を取り返そうとした朱美と民江はもみ合い、二人は川に落ちた。朱美は、現在の夫に助けてもらったのだという。
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元精神科医にして精神分析学者の降旗弘は、幼年期の恐ろしい夢の意味をさぐるべく、フロイトなどの精神分析を学んだが、その理論を超えられず、半年で仕事をやめ、牧師の白丘と出会い、教会の居候となった。白丘は、プロテスタントの牧師であるにもかかわらず、告解にくる人々を拒まない。降旗がそこにとどまる条件は、彼らの懺悔を聴くことだった。
ある日、女―宇多川朱美が訪れた。彼女は、前世の記憶が蘇ってくる、と語った。山で育ったはずにもかかわらず、蘇ってくる海―九十九里浜の記憶。8年前の夫、佐田申義殺害。その首の切断。宗像民江との争い。そして今。彼女の家を、佐田の亡霊が訪れ、彼女を襲うという。彼女は恐怖のあまり亡霊の首をしめ殺害し、首を切り落としたという。しかし、その後も繰り返し亡霊が現れ、そのたびに、首を切ってしまうというのだった。
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関口巽は、久保竣公の葬儀の際、有名作家の宇多川崇と出会う。宇多川は、関口に相談があるという。8年前に助けた、現在の妻の宇多川朱美のことだった。前世の記憶が見えるという苦しみ、8年前に夫を殺したという告白―宇多川は、関口を通じて榎木津に調査を依頼し、8年前の佐田申義殺害事件について調べてほしいという。
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秋の事件で単独行動をしたため、木場は年長の長門五十次刑事と組むことになった。木場には緩慢な動きに見える長門は、ともあれマイペースであった。木場は合わないと感じつつ、彼と行動することになる。しばらく事件もなく、暇をもてあましていた木場は、新聞を読むようになり、神奈川県の「金色髑髏」の事件を知った。最初は、海に漂う金色に光る髑髏が発見された。その後、時間をおきながら、髑髏が見つかっていた。ただ、その髑髏は肉片や髪の毛をくっつけていたという。そして昭和27年(1952年)12月1日、ついに生首が捕獲されたという。この情報を、木場は長門から知った。
一方、長門と木場は、同じく神奈川で9月に起こっていた、二子山山中での集団自殺事件について、調査を開始する。
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前作『魍魎の匣』同様、一見無関係な事件が、からみあっているという構造です。
今回は、関口さんの一人称はありません。三人称視点で関口さんの描写があるのは新鮮でしたが、ちょっと寂しいような気もします。
さて、『姑獲鳥の夏』が関口さんの物語、『魍魎の匣』が木場さんの物語とすれば、本作『狂骨の夢』は、伊佐間さんの物語といえるでしょうか。もちろん、それはシリーズとして見た場合で、本書の主人公はまず、朱美さんですね。
その他、髑髏にトラウマをもつ降旗さんと白丘さん。降旗さんは、木場さんと榎木津さんと子供の頃の友達で、なので、榎木津さんの子供時代についても少し語られるのですが、まったく変わっていませんね。
朱美さんの、前世の記憶への恐怖、首を切っても繰り返し蘇ってくる死者への恐怖。降旗さんの夢の記憶。白丘さんの恐ろしい過去の記憶。これらが本書の前半で語られます。どれも興味深いのですが、前二作に比べれば、若干地味な印象も受けました。なかなか動きがないのですね。ところが、いくつかの物語が錯綜し、動き始めたとたん、どんどん引きつけられます。やっぱり面白いです。
本書を読むのは4~5度目だと思いますが、とにかく、本作での榎木津さんの活躍が素敵です。終盤、教会でのセリフは何度読んでも鳥肌がたつくらいかっこいいです。
(2023.09.19再読)
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