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テーマ:■ムービー所感■(484)
カテゴリ:日本映画
眠ったまま、自らを切り刻み自殺する、不可解な事件が続けて発生する。捜査に当たる、キャリア組の女性刑事・霧島(hitomi)は、なんらかの暗示として捜査を進めるが・・・。 やがて、事件の鍵は悪夢にあると確信した彼女は、他人の夢の中に入る特殊能力を持つ“ 悪夢探偵 ”影沼京一(松田)に協力を申し出るのだった―――。 かなりヘビーで鮮烈な濃い作品を撮る塚本晋也監督。最新作には『悪夢探偵2』が控えているそうです。 これまで扱ってきたジャンルは様々。 『鉄男』のSF、『六月の蛇』のエロスと恋愛、『双生児』の文芸もの、『バレット・バレエ』『TOKYO FIST』のアクション、『ヴィタール』の形而上的世界。 『悪魔探偵』は分類するならば、ホラーということになりそうです。サイコ・スリラー。 VFXが多用されて、映像が複雑になり、何気にB級感が薄れているのを感じますが、中核にある熱いものは同じ。 ファンとしてはホッとする、変わらない塚本ワールドがありました。 映画としては50点だとしても、好きだから甘い(笑)贔屓目満載です。 シリーズ化になりそうな予感だけれど、続編はどんなものだろうかと・・・心配。 エリート刑事・霧島は、自ら望んで、デスクから現場へと転属してきました。 尋常でない自殺の事件性に気づき、捜査する中で、自分の心にも渦巻く暗部を感じ始める――。 転属してきたわけもまた、そこにあることを薄々気づき、自身の内面とも闘うことになっていくのです。 彼女の捜査を嫌々助けるのが、悪夢探偵・影沼。彼もまた、そうとうに病んでいます。 強烈な自殺願望の持ち主で、首つり自殺に失敗したところへ、初対面の霧島が訪れるという・・・なんという不条理!(笑) 道理の通らないサイコスリラーは、目に見えているものだけが真実ではないと、力ずくの説得力で押し切られてしまいます。 真相が奇なるものであることを、受容させてしまう。 でもこれが、特別な思い入れなく観た人にはどうなのだろう。 評価の悪さは、主演ふたりの、お世辞でも上手いとは言えない演技のせいだけではなく、納得できないという思いからでもあるはずです。 都会の闇、現代人の抱える闇。その病巣を抉って描く塚本作品には、リアルな実感が伴っているから好きです。 『六月の蛇』からの繋がりを感じさせるいのちの電話。 冒頭から、悩みを吐き出す人々の電話の声がこだまします。悩みを吐き出し、死にたいとつぶやく声・・・。 夜のしじまに、いのちの電話で繰り広げられる陰鬱すぎる会話は、膨らんで膨らんで許容オーバーになりそう。たったの数十秒のシーンで、そんなことを思う。 毎年多くの人が自殺で死んでいく、悩める国で生きる私たちに、塚本さんが言いたいことは、「みんな苦しいし、死ぬのは怖いんだぜ。でもいいこともあったはずだ。孤独に沈む前に、思い出せよ」そんなところだろうと、想像する。 血みどろな映像満載にして、ほんの1分の癒しに涙を流させる人。それが塚本さんなのです。 監督自身が演じている、事件の鍵を握る不気味な男も、悪夢探偵・影沼も、過去に強烈な心的外傷を受けていて、それゆえに病み、自殺願望と闘っています。 それぞれの過去の出来事が明らかになると、痛々しすぎるほどの内容で、ツライ。 けれど、結局みんな、生きたいと願っている。死を前に、ほんの少しの幸福を前に、生きてもいいかなぁと、思う。 わけもなく死にとり憑かれていた霧島も、死を拒んで生きることを望んだように――。 全体にぎこちないけれど、いつもとまた一味違った塚本ワールドが楽しめました。 ホラー感覚の恐怖を楽しむもよし。今まで観たことのない安藤政信の形相を楽しむもよし? 軽く観たあとで、内面に迫ってくる叫びをほんの少しでも耳にすることができたら、もしかしたら、自殺を抑止する効果さえあるのではないかと思われる、そんな作品でした。 監督・脚本・美術・編集 塚本晋也 撮影 塚本晋也 志田貴之 音楽 石川忠 出演 松田龍平 hitomi 安藤政信 大杉漣 原田芳雄 塚本晋也 (カラー/106分) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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