テーマ:スローライフ(923)
カテゴリ:昭和恋々
![]() 母がふだん使う鏡台は、奥の父と母の部屋にあって、髪油や白粉(おしろい)の匂いがしたが、縁側の姫鏡台には、匂いがなかった。 小引き出しを開けると、毛抜きや爪切りや耳かきや輪ゴムや・・・・そんな細々とした小物が入っていた。 晴れた朝は、縁側の姫鏡台が白く光り、雨の夕暮れには、鏡面に、壊れた樋(とい)の破れ目から、滴り落ちる雨が映っていた。 そして鏡の中で、小さな小さな庭の小さな樹たちは、緑に輝き、紅に色づき、やがて白茶けた枯れ枝に変わり・・・。 季節は楕円形の鏡の中に、ゆっくりと過ぎてゆくのだった。 「昭和恋々」久世光彦 ・・・・・・・・・・ 私の子どもの頃、家の近くに、姫鏡台のある家があった。 その家の前を通る時、箪笥の上のこじんまりと、たたずむ、姫鏡台に子どもの私は憧れた。 そのうちには、若い姉妹がいたので、普通の鏡台があったのだろうか。 それとも、その家は大阪から疎開してそのまま住み着いていたので、大きな鏡台が買えなかったのだろうか。 今となっては、分からない。 あんなにも憧れていたのに、長く忘れていた。 それから、30年以上たったある日、偶然、姫鏡台を見た。 それは、大橋歩の部屋が載った雑誌だった。 黒い鉄のベッドとベッドカバーは、手作りのシックなキルト。 その横に、シックでシンプルだけど、品のいい、西洋の箪笥。 姫鏡台は、そのシックな箪笥の上に鎮座していた。 ベッドもベッドカバーの箪笥も、姫鏡台も、絶妙のバランスだった。 そのどれが、欠けても、変わっても、アンバランスになると思うくらいに・・・。 どれも豪華なものではない。 けれども、どれも、存在感のあるものだった。 今の私は時々、その雑誌の切り抜きを取り出して眺めては、いつかは、こんな部屋に住みたいとため息をついている。 以来、骨董市で、姫鏡台を無意識に探している。 遠い子どもの日に見た姫鏡台、 大橋歩の部屋にあった、西洋の姫鏡台・・・。 どちらも憧れである。 ![]() ★4月30日* 龍野市の地名変更、MOTTAINAIぞ!!*UP ・・・・・・・・・・・・・ ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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