左大臣邸に退出なさいますと、
女君はいつものように端正で取りすました様子でいらっしゃって、
素直な可愛らしさもなく、源氏の君は気詰まりで、
「せめて今年からは、もう少し世間並みの夫婦のように打ち解けるお気持ちが見られると、
どんなに嬉しいことでしょう」
と申し上げるのですが、
『わざわざ二条院に女人を迎えて、かしづいていらっしゃる』とお耳になさってからは、
『その人を大事な北の方に決めていらっしゃるのだわ』とばかりお思いになり、
そのせいで源氏の君にたいそうよそよそしく、恥ずかしくお思いでいらっしゃいます。
それでも強いて知らぬように振舞っておいでになり、
源氏の君の打ち解けた態度には我を張らず御返事など申し上げるご様子は、
やはり他の女人とはたいそう違っているのです。
女君は四歳ほどお年上でいらっしゃいますので、年齢相応の貫禄が備わり、
そのせいか源氏の君には気詰まりなほど完璧な女ざかりに見え給うのです。
『この人の、どこに不足な所があるだろうか。
私のあまりに怪しからぬ浮気心のために、このような恨みを受けるのだろうな』
と思い知るのでした。
同じ大臣と申し上げる中にも、とりわけ左大臣は世間の信望が重くていらっしゃいます。
その北の方の宮がお産みになった一人娘ですから、
大事にかしづいていらっしゃるのは尤もな事です。
けれどそのためにこの上もなく気位が高く、
少しでも粗略に扱うと『もってのほか』と不機嫌におなりですから、
源氏の君は『どうしてそんなに御機嫌をとらねばならぬのか』と、
いつもお思いになるのです。
そのようなお気持ちが、お二方の御心の隔てともなるのでしょうか。