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「私の心には、権威に屈してたまるかという反骨精神のようなものが、常に偏西風のように吹いている」(103ページより)
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著者・編者 | 石橋博良=著 |
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出版情報 | IDP出版 |
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出版年月 | 2011年08月発行 |
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著者は、ウェザーニュース社の創業社長、石橋博良さん。
石橋さんは、北九州大学外国語学部卒業後、安宅産業という商社に入社。木材を現地調達する仕事で成功するが、あるとき、予想外の時化で運搬船を遭難させてしまう。この失敗を期に、アメリカに本部をもつ海洋気象会社オーシャンルーツに転職。そこで船舶向けの気象情報を発信する仕事に従事する。
日本国内の仕出し弁当会社が、オーシャンルーツ社に気象情報の提供を求めてきた。石橋さんは陸上でも気象情報が必要とされていることに気づく。
石橋さんは「必要とされている情報と、入手できる情報とのギャップを私たちの力で埋めることはできないかと。そのことで、気象情報を必要とするすべての業界が喜ぶサービスを提供できるのではないか」(161 ページ)と思ったという。
「こうして考え出されたのが、あらゆる業界に対し、365 日 24 時間体制でサービスを提供する『あなたの気象台』としてのウェザーニューズ社」である。
当時気象庁が独占していた予報業務よりきめ細かな気象情報を発信することでウェザーニュース社は成功し、やがてオーシャンルーツ社を買収してゆく。
本書は、そうした石橋さんのサクセスストーリーが淡々と綴られている。けっして夜郎自大な内容ではなく、石橋さん本人が強く思った結果がウェザーニュース社であると感じた。
冒頭で石橋さんはこう述べている――気象は自然科学の対象であり、天体や植物や鉱物などと同様に万人に対して常に開かれた研究と思惟の対象である。にもかかわらず、マスメディァの分野に限定されていたとはいえ気象についての正しい情報は国が提供する情報だけだというのはおかしい。しかも人々のニーズは多様である。それなのに気象庁発表の限られた情報しか受け取れないという状況はすこぶる倒錯している。(20 ページ)
気象庁との間には、丁々発止としたやり取りがあったに違いない。本書では、そのドロドロとしたやり取りは描かれていない。せめて気象予報士の誕生した経緯が書いてあれば、もう少し面白かったかもしれない。
そして最後にこう締めくくられている――私は情報民主主義の世界を創り出すことにチャレンジしたいのである。それが私の夢であり、私の自分自身の限界への挑戦である。その夢が叶ったときに、私はリタイアする。(227 ページ)
残念ながら、石橋さんは 2010 年 5 月、63 歳の若さで他界した。
情報格差は無くなっていない。2011 年に起きた福島第一原子力発電所事故では、文部科学省が保有する緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)の情報が伝われず、一部の福島県民が放射性物質が降り注ぐ地帯に沿って避難するという悲劇が起きた。
石橋さんの夢は、いまだ実現されていない。