| 野坂教授「背負うことができない人のところには重荷はこないものなのです」(132ページ) |
著者・編者 | 海堂尊=著 |
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出版情報 | 新潮社 |
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出版年月 | 2015年7月発行 |
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『チーム・バチスタの栄光』から 10 年。医師で重粒子医科学センター・ Ai 情報研究推進室室長の海堂尊氏が描く「桜宮サーガ」が終わる。
これまでのシリーズを読んできた人はニヤリとするだろうし、本書が初見の人は、微に入り細を穿った舞台設定に舌を巻くことだろう。設定や登場人物が、現実世界のカリカチュアであることは言うまでもない。
冒頭、裁判人が老医師に対し、「この者を獄へ繋げ。病気で苦しむ民草を見過ごすとは何事だ。旅人が死んだのはお前のせいだ」と裁きを下す。これに対し老医師は、「それは確かに私の罪です。でも無料で薬を分けたりしたら、病院は潰れてしまいます」と答える――「桜宮サーガ」の根幹を流れているのは、医療と司法の対立構造である。医療界のスカラムーシュ(大ぼら吹き)彦根新吾医師が本書の主人公だが、これは海堂尊先生ご本人なのではないだろうか――。
加賀にある養鶏会社ナナミエッグを、彦根新吾が訪問する。インフルエンザ・ワクチンの培地として、ナナミエッグに大量の有精卵を製造してほしいというのだ。応対したのは、ナナミエッグの社長の娘であり、加賀大学大学院に通う名波まどか――。
会社を精算することを考えていた社長は、娘に新事業の立ち上げを託した。かくして、大学院の研究課題として、幼なじみのの真砂拓也、獣医学部の鳩村誠一の 3 人が、この事業立ち上げに着手する。
インフルエンザワクチンの培地として自社の卵を供給することをこばむ父を見て一時は諦めたまどかに対し、ワクチンセンターの宇賀神総長は「ヒトを助けるためにはニワトリを犠牲にしなくてはならないとともあるのや」と真実を告げ、ついに事業がスタートする。
『ナニワ・モンスター』のキャメル騒動はまだ終わっていなかった。
ワクチンセンターの宇賀神義治所長とまどかの父との因縁とは。暗躍する浪速市の村雨知事と、カマイタチこと浪速地検特捜部副部長・鎌形雅史――彦根は、これら一癖も二癖もある連中と対峙しながら、極北市民病院の院長を務める世良雅志を訪れ、モンテカルロのエトワール・天城雪彦の遺産への鍵を受け取る。モンテカルロからジュネーヴ、ベネチアへ飛ぶ。
帰国した彦根を待っていたのは、警察庁情報統括室室長の原田雨竜だった。すべてのシナリオが無に帰そうとしたその時、彦根たちを救ったのは、『イノセント・ゲリラの祝祭』でデモに巻き込まれたひとりの元医師だった。
空港で雨竜の渡米を見送った彦根は、桧山シオンと 2 人たたずむ――「気がつくと、二人のシルエットは消えていた。そう、すべては夢まぼろしのように」(409 ページ)。海堂尊先生の旅は、まだ続きそうだ。