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カテゴリ:書籍
作者は、『さよならドビュッシー』で第8 回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2010 年にデビューしたミステリー作家の中山七里さん。本作は『切り裂きジャックの告白』『七色の毒』に続く、「刑事犬養隼人」シリーズ第3 弾だ。 誘拐の舞台となった神楽坂の安養寺、白菊稲荷神社、参議院議員会館は実在する。また、香苗が通院していた飯田橋メディカルセンターや、槇野が会長と務める日本産婦人科協会、綾子が主催する全国子宮頸がんワクチン被害者対策会、犬養が捜査している帝都大附属病院、亜美が通っている九段女子学園は、そのモデルが容易に推測できてしまう。だが、本書のどこを探しても、「この作品はフィクションです」と記されていない――大丈夫か、これ? 製薬業界と医療機関、厚生労働省が裏で癒着しいるという「陰謀の構図」は、いまでは陳腐化してしまった。本書では、昭和の最後に起きた「薬害エイズ事件」に触れているが、現実世界ではこれらを反省材料として、平成時代に情報公開が進み、かつてのように大量の裏金が行き来する状況は発生しにくくなっている。だいいち、子宮頸がん予防ワクチンは公費助成になった時期はあるが、保険診療ではない。 厳しいことを言わせてもらえば、露悪的社会派ミステリーを標榜するのは、それは作者にフィクションを書き切るだけの力量がないことを誤魔化しているだけではないか。そもそも、真犯人が「ハーメルンの笛吹き男」に託したメッセージ性は何だったのか――作者の他の作品を読んでいないのだが、本作を読んだ限りでは、犬養刑事の上司である麻生警部の活躍に期待を寄せている。台詞に救いがあったし、登場人物の名前の由来から考えても、現役の「閣下」だから(笑)。 文庫版では、三省堂書店の新井見枝香氏が「解説」で、「本作は、いささか偏りがあると感じた」として、本作の後日談を書いてフォローしている。亜美の友人、栗田美鳥の口を借りて「実際、ワクチンのおかげで、世界の子宮頸がん患者は激減した」と語らせ、香苗の結婚式会場で幕を閉じる。めでたし、めでたし。 15 歳の月島香苗(かなえ)は、綾子が母親であることを認識できない。週に一度、飯田橋メディカルセンターに通院する彼女は、心理的・社会的ストレスによって記憶障害が引き起こされたものと診断されていた。 犬養は捜査の過程で、綾子が実名でブログを運営していることを知る。綾子は、最初は香苗の病状を綴っていたが、全国子宮頸がんワクチン被害者対策会のメンバと接触すると、記憶障害の原因が子宮頸がんワクチンの副作用であることを知り、犯人捜しと告発を書き込むようになっていった。犬養は、子宮頸がんワクチンを推奨する日本産婦人科協会の槇野会長が綾子の活動に敵意を抱いているのではないかと睨む。 そんな中、2 人目の誘拐事件が起きる。九段下の白菊稲荷神社で、九段女子学園の亜美が行方不明になった。彼女は、槇野会長の 1 人娘だった。犬養は混乱する。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2019.05.06 12:41:05
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