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宇宙が星や銀河、われわれ人間などの「物質」でできているのは、最初期にほんの少しだけ「反物質」より「物質」のほうが多かったから。なぜ物質の方が多かったのか――その謎を解く鍵である「CP対称性の破れ」を提唱した小林・益川理論の正しさを実験的に示し、この理論にノーベル物理学賞をもたらしたKEK(高エネルギー加速器研究機構)の研究者たちが、1970年代から今日にいたる実験の全貌と、未解決の問題を解説する。実験研究者たちの矜持、とくに、実験データの信頼度を5σ(信頼区間99.99994%)まで高めようとする努力の数々には頭が下がる思いがした。 1932年、宇宙線の中に陽電子が発見される。陽電子は、正電荷を持つ電子そっくりで、電荷だけが反対の反粒子だ。粒子と反粒子が持つその対等な性質のことを「CP対称性」と呼ぶ。同じ年、イギリスの静電型加速器によって中性子の存在が実験的に証明された。 理論家へのノーベル物理学賞は、原則として、実験や観測による裏付けが得られるまで与えられないという。1973年に提唱された小林・益川理論がノーベル物理学賞を受賞したのは2008年になってからだった。 こうしてクォークのCP対称性の破れは証明されたが、それだけでは物質の方が多い理由を説明できない。そこで、ニュートリノのCP対称性の破れを検出する実験が立ち上がる。東海村のJ-PARCでつくったニュートリノビームを、295キロメートル先にある神岡のスーパーカミオカンデに打ち込むT2K実験だ。 宇宙誕生直後には全ての質量がゼロで、ヒッグス機構が素粒子に質量を与えたと考えられている。だが、ヒッグス粒子は素粒子かどうか疑わしい。ヒッグス粒子が素粒子なのか複合粒子なのかを調べるには、LHCの100倍のエネルギーを持つ加速器が必要と考えられているが、それは現実的ではないので、他の素粒子との結合力を調べることで、その正体を探る実験が進んでいる。もしヒッグス粒子が素粒子だとすれば、ニュートリノの質量が軽いことの説明ができるし、CP対称性の破れによる宇宙の物質と反物質の生成に関与しているというシナリオが成立する。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2022.02.06 12:33:17
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