|
カテゴリ:書籍
著者は、分子生物学が専門の福岡伸一さん。「生命とは何か」という生命科学最大の問いに対する研究を続けており、一般向けの啓蒙書を多く執筆している。本書は以前読んだことがあるが、『生物と無生物のあいだ』は65万部を超えるベストセラーとなった。NHKの『最後の講義 生物学者 福岡伸一』を見て、あらためて読み直してみた。 「生命とは何か」という問いに対して、DNAの世紀だった二十世紀的な見方を採用すれば「生命とは自己複製可能なシステムである」との答えが得られる(258ページ)。だが、この定義には、生命が持つもう一つの極めて重要な特性がうまく反映されていない。それは、生命が「可変的でありながらサスティナブル(永続的)なシステムである」という古くて新しい視点である(258ページ)。 動的平衡は、1930年代にルドルフ・シェーンハイマーが提唱した考えを引き継いでいる。 You are what you ate.(汝とは、汝の食べた物そのものである)(66ページ)という西洋の諺がある。われわれ生物は、口に入れた食物をいったん粉々に分解することによって、そこに内包されていた他者の情報を解体する(72ページ)という消化を行う。 分子生物学的に考えると、ダイエットの基本は、インシュリンが大量放出されないよう、「だましだまし」食べる(113ページ)ことだという。余剰カロリーを消費する運動は現代人にとってかなり厳しいものなので、まずはインプットを減らそうという、科学的でお気楽な方法である。 ヒトゲノム計画のおかげで、ヒトの細胞で働いている遺伝子が約2万個あることが分かった。ヒトは2万種類のパーツからできているということになるが、福岡さんによれば、単に2万種のパーツを組み立てた機械ではないダイナミズムがあるという。つまり、時間に沿って、これらの部品の相互作用が起きることが「生命」であるという。福岡さんは、これを、「生命の持つ柔らかさ、可変性、そして全体としてのバランスを保つ機能――それを、私は『動的平衡』と呼びたい」(176ページ)という。 病原体は、原則として種の壁を越えて感染することはない。宿主の細胞に取り付いて、細胞の内部に入るための扉の鍵は、種によって違うものになるからだ。同様に、種の壁を越えて生殖を行うことはできない。精子が卵子の内部に入るためにも合鍵が必要になるからだ。 2016年のノーベル生理学・医学賞は、大隅良典氏のオートファジー研究に対する貢献に対して授与された。オートファジーとは自食作用のことだが、これも動的平衡のメカニズムの1つだ。 2016年のノーベル生理学・医学賞は、大隅良典氏のオートファジー研究に対する貢献に対して授与された。オートファジーとは自食作用のことだが、これも動的平衡のメカニズムの1つだ。 生命とは何か――高校の生物で習ったのは自己複製であった。エネルギー代謝や構造を加える場合もある。大学へ進学し、人工知能研究として出会った言語 Prolog は、学習データを自らのプログラムに取り込み増殖、自己複製することができる。電気エネルギーを情報に変換して蓄えることができる。もちろんプログラミング言語としての構造を備えている。では、Prologは生物であるか――否。 また、分子生物学者の視点から、怪しげなダイエットやサプリメントを切って捨てる。1日あたり60グラムのタンパク質を平均して摂取することが、生き続けるのに必要なことだという。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2022.12.24 12:23:28
コメント(0) | コメントを書く
[書籍] カテゴリの最新記事
|